本研究では、遅延視覚フィードバックの下でのラバーハンド錯覚を通じて、主観的「現在」の時間幅およびその可塑性を行動実験と非侵襲脳活動計測・脳刺激実験により明らかにする。実験では偽物の手(ラバーハンド)と被験者の手に同時に触覚刺激を与える一方で視覚フィードバックには数百ミリ秒の遅延を加える。これにより被験者の受ける触覚-視覚刺激間に任意の時間ずれを挿入でき、ラバーハンド錯覚が生起する限界の視覚フィードバック遅延幅を計測できる。 今年度は経頭蓋直流電気刺激(tDCS)を左右の頭頂葉に与えることによって、ラバーハンド錯覚の生起の仕方にどのような変化が現れるか、特に主観的「現在」の時間幅をtDCS刺激によって伸張・収縮することができるかを検討した。その結果、右TPJへのcathodal刺激によって錯覚が有意に弱まることが明らかになった。左TPJへの刺激ではそのような主効果は見られなかったが、500ms遅延条件においてのみAnodal条件と比べてCathodal条件では錯覚が弱まることが示された。この結果は特に右のTPJがラバーハンド錯覚を生起させるために重要な部位であり、tDCSによる抑制(Cathodal)刺激によって錯覚を減衰させることを示した重要な結果であるといえる。左TPJについては部分的な効果が見られたが、これについては今後の更なる検証が必要であると考えている。これらの成果は現在国際論文誌に投稿準備中である。
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