研究領域 | こころの時間学 ―現在・過去・未来の起源を求めて― |
研究課題/領域番号 |
26119533
|
研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
林 隆介 独立行政法人産業技術総合研究所, 人間情報研究部門, 主任研究員 (80444470)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 神経科学 / 視覚情報処理 / 心理物理学 |
研究実績の概要 |
我々の脳は、視覚刺激の出現や変化を時間軸に沿って処理しているが、時間的に後から生じた事象からも修飾を受けて知覚内容を変化させる。こうした時間軸を逆行する遡及効果により、神経伝達に伴う情報処理の時間遅れを補償し、絶えず変化する外界に知覚内容を適応させていると考えられるが、その神経基盤は明らかではない。本研究では、動物モデルをもちいて、物体視処理に関わる腹側視覚経路の脳表面から神経細胞群の電気的活動を多点同時記録し、物体情報が変化する画像を観察中に視覚表象がどのように時間発展しながら領野間を伝搬するのかを明らかにすることを目標としている。 これまでに、下側頭葉の終端部であるTE野の後部、中央部、前部に埋め込んだマイクロ電極アレイから、さまざまな物体画像に対する神経活動記録を行い、物体カテゴリーに関する情報量の時間変化を、情報復号化精度を基準に評価した。その結果、物体情報が変化しない静止画の場合、刺激後100-300msをピークに情報量は漸次低下していくことが明らかになった。さらに、物体カテゴリーの変化が、神経応答の時間特性にどのように影響するのか調べるため、ヒトやサル、果物、靴、車、電車などさまざまな物体の3DCGモデルとそれらをモーフィングした画像から成るデータベースを構築した。また、多数の電極埋め込みを可能にするため、新たな動物実験装置の開発を行い、特許を取得した。この他、情報量解析に用いた信号復号化手法を応用して、神経データから、どんな手の画像を見ているか推定することにより、ロボットハンドを制御するシステムを開発し、積極的に学会発表を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
さまざまな物体画像の提示によって誘発される神経細胞群の電気的活動を、下側頭葉の終端部であるTE野の後部、中央部、前部に埋め込んだマイクロ電極アレイから記録を行い、物体カテゴリーに関する情報量の時間変化を調べた。その結果、静止画の場合、100-300msをピークに、情報量が漸次低下することがわかった。つぎに、物体情報が動的に変化する映像に対する、TE野の神経活動の時間変化を計測するため、新たに画像データベースの構築を行った。具体的には、ヒト(20人)とサル(16頭)のほか、果物、靴、車、電車などさまざまな物体の3DCGモデルを作成し、モーフィング操作を行うことにより、物体カテゴリーの変化する画像群を生成した。また、同画像データベースを使い、人間を被験者とする心理物理実験を行う環境を構築した。本研究においては、多数のマイクロ電極アレイを下側頭葉に沿った脳領域に埋め込む必要があるが、そのためには、電極の出力コネクタを設置する場所を確保する必要がある。従来の実験装置では困難だった4つ以上のコネクタ設置を可能にする、新たな動物実験装置の開発を行い、特許を取得した。この他、情報量の評価に用いた信号復号化技術をつかって、どんな手の画像を見ているか神経データから推定し、ロボットハンドを制御するシステムを開発した。さらに、実験課題を遂行できるよう実験動物2頭のトレーニングを終えた。このように、神経信号に含まれる物体情報の時間変化が明らかになり、実験環境の立ち上げが進むなど、計画当初の予定を概ね達成することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
訓練を終えた2頭の実験動物のさまざまな脳領域(TEO野およびTE野後部、TE野中央部、TE野前部)に400μm間隔で配列された96本の電極からなるアレイ型電極を計4個(合計384本の電極)埋め込み、物体情報が変化する動画に対する神経活動を記録することを目標とする。そして、記録した神経データを解析し、脳内での物体情報変化と、物理的な物体情報変化との比較ならびに、領域間での情報表現の時間発展の違いを解明する。
|