合成生物学の究極の目的は、人工的に細胞を作製し、それが自己複製能力をもつことであると言える。人工的なリポソームに生体膜のような自己合成能を付与することができれば、人工細胞作製の大きな一歩となる。膜タンパク質は生合成に共役して膜挿入するが、その際いくつかの膜挿入因子の協調的作用が必要となる。我々はタンパク質膜挿入に必須の糖脂質MPIaseを発見し、前年度in vivo の反応を忠実に反映したタンパク質膜挿入反応の再構成系の構築を完了した。本年度は、この再構成系で機能的な膜タンパク質が合成できるかどうか調べた。別のプロジェクトでリン脂質生合成に関わるCdsAタンパク質がMPIase生合成にも関与することが明らかとなった。CdsAはシグナル認識粒子SRPや膜透過チャンネルSecYEGに依存して膜挿入する膜タンパク質である。CdsAを膜挿入可能なプロテオリポソーム存在下で試験管内合成させると、MPIase生合成中間体の精製が認められた。この結果は試験管内で合成したCdsAが機能的なタンパク質として膜挿入したことを示している。さらに、F0F1-ATPaseのcサブユニット(F0-c)もMPIaseに依存して膜挿入し、高次構造を形成することを明らかにした。これらのことから、我々の再構成系で機能的な膜タンパク質を合成できることが確認された。現在、膜挿入に必要な因子を再構成したプロテオリポソームにタンパク質合成系を封入することを試みている。このプロテオリポソームはもっとも単純な人工細胞といえるものと考えている。
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