研究領域 | 動的・多要素な生体分子ネットワークを理解するための合成生物学の基盤構築 |
研究課題/領域番号 |
26119703
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
野村 渉 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 准教授 (80463909)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | タンパク質 / DNA / ゲノム編集 / CRISPR/Cas / テロメア / hTERT |
研究実績の概要 |
ゲノムを自在に操作,および制御する技術は,Synthetic Biology(合成生物学)研究のなかでも特に哺乳類細胞における研究の発展に大きく貢献すると考えられる。これまでの研究においてジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)や標的遺伝子特異的に組換えるDNA組換え酵素(ジンクフィンガーリコンビナーゼ:ZFR)を用いたゲノム編集に関する研究を推進してきた。 本研究では哺乳類細胞のゲノムに特化した技術,任意の標的配列を編集もしくは改変できる技術としてヌクレアーゼによるゲノム編集技術であるZFN,TALEN,CRISPR/Cas systemの3技術の各特長を組み合わせ,合成生物学研究に利用できる基盤技術としての体系化を推進する。多要素な生体分子ネットワークを哺乳類細胞で再構築するには特に複雑な遺伝子改変技術が必要であるため,(1) 人工遺伝子回路のゲノムへの導入技術,(2) 細胞バーコーディング技術,(3) ゲノムワイドな染色体改変技術,(4)細胞特異的プロモーター活性の利用技術,(5) トランスジェニック(ノックアウト)細胞ラインの樹立技術,を研究計画として挙げている。 (1),(2),(4)の各項目については標的配列に特異的に働くZFN,TALEN,CRISPR/Casを構築することに成功し,それぞれの細胞に対する変異導入率も定量することができた。従って,次年度においてドナー遺伝子として人工回路遺伝子やプロモーター配列,もしくはバーコーディングに利用する蛍光タンパク質遺伝子の導入方法を検討する段階に達している。(3),(5)に関しては比較的多数の細胞からクローンを選択してくる基盤は構築しており,次年度の研究において設計通りに変異が導入されたクローンの取得,およびその効率化に取り組む段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に挙げた各項目における実施状況は以下の通りであり,当初の予定通り実施することができた。 (1)人工遺伝子回路のゲノムへの導入技術について,本研究では直接的に人工遺伝子回路を遺伝子座に導入することで細胞株を選ばない研究を可能にするため,導入部位としては他の遺伝子や細胞機能に影響を及ぼさないsafe harborとされているAAVS1を選択し人工遺伝子回路の要素配列をコードしたプラスミドの構築,導入する遺伝子座としてAAVS1を標的とするZFNおよびTALEN,CRISPR/Casを構築した。 (2)細胞バーコーディング技術について,本研究ではジェネティックな改変を行った細胞について,簡易な検出法で操作の有無を区別するための手法の一つとして,バーコード情報となる蛍光タンパク質遺伝子発現系を安全な遺伝子座に導入する系を構築し,導入遺伝子座と蛍光タンパク質を複数組み合わせることでバーコード化する。AAVS1遺伝子座について蛍光タンパク質(EGFP,ECFP,EYFP)それぞれをコードするドナー遺伝子を構築した。 (3)ゲノムワイドな染色体改変技術では染色体上での転座は細胞のがん化などに関連するが,転座を人工的に制御することで各染色体上に存在する遺伝子座の間でのトランスの関係性などを探る研究などが可能になる。本年度はIL-1RN遺伝子を標的とするガイドRNAプラスミドを複数構築し,Cas酵素と細胞に同時導入して切断効率を検討した。 (4)細胞特異的プロモーター活性の利用技術ではゲノムワイドに遺伝子の発現系の利用,制御が可能であれば,合成生物学研究の領域拡大が望める。本年度はプロモーター領域を標的とするZFN,CRISPR/Casを構築し,効率的に遺伝子配列を欠損させることが可能であることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方針としてはこれまでの研究が当初の計画に沿って進捗しているため、当初の研究計画に則って実施する予定である。各研究項目では以下のように予定している。(1)人工遺伝子回路のゲノムへの導入技術/人工遺伝子回路をゲノムに導入し,蛍光顕微鏡およびフローサイトメーターによる蛍光強度の測定から回路形成を確認する。人工遺伝子回路はドナー遺伝子として構築するが,ZFNによる切断配列の周辺約1,000bp程度と相同性をもつ配列を人工遺伝子回路の配列に加えることで効率的に導入することが可能になる。(2)細胞バーコーディング技術/蛍光タンパク質遺伝子をドナーとして細胞へ導入し,遺伝子座へ安定的に導入した細胞を樹立し,蛍光顕微鏡,フローサイトメーターでの観察,定量を行う。(3)ゲノムワイドな染色体改変技術/切断効率が高く,off-target効果の低いガイドRNAを用いて各遺伝子座を同時切断し,染色体転位を検出する。(4)細胞特異的プロモーター活性の利用技術/これまで用いられているプロモーターによる発現だけでなく,内在性プロモーターの直下流に組み込むことで,細胞の状態に応じたプロモーター活性による発現システムを構築する。(5)トランスジェニック(ノックアウト)細胞ラインの樹立技術/各細胞クローンの樹立については初年度に検討している。本年度はZFRを使い,遺伝子欠損タイプの細胞樹立法を確立する。MBD3;メチル化DNA結合タンパク質;TEF-1,転写因子(神経・筋分化形成に関与);RA-GEF-1ヌクレオチド交換因子(血管網形成)を標的としてZFRを構築し,組換え反応を定量的に検出する。
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