これまで開発してきた温度誘導型遺伝子発現システムや細胞傷害感受性遺伝子発現システムと同様に、RTP801プロモーターを用いて低酸素感受性の遺伝子発現システムの構築を検討した。酸素濃度に対する感受性を高めるためにトランスアクチベーターに低酸素誘導因子(HIF)由来のODD領域を組込むこととした。ODD領域は高い酸素濃度時にユビキチン化を介してタンパク質分解を引き起こすことができるので、低酸素誘導型の遺伝子発現システムをさらに高精度なものにすることが期待できる。構築した低酸素誘導型遺伝子発現システムをHeLa細胞に一過性で遺伝子導入したところ、RTP801プロモーターによる低酸素状態の検出では発現の大きなリークが認められ、細胞センサーとしてはあまり良好ではなかった。しかし、トランスアクチベーターに酸素感受性のODD領域を組込むことで、低酸素状態に特異的にレポーター遺伝子発現を誘導することができた。次に、低酸素状態検出のための遺伝子発現ユニットをHeLa細胞のゲノム染色体に組込まれた細胞を作製した。種々の酸素濃度で細胞を培養し、レポーター遺伝子(GFP)の発現を観察・測定することで低酸素環境に応答した遺伝子発現を調べたところ、この遺伝子発現システムを導入されたHeLa細胞は、低酸素濃度に条件に応答して遺伝子発現を示し、センサー細胞を樹立することに成功した。さらに、三次元組織中の低酸素環境を検出するためのセンサー機能を評価するために、この細胞を用いて三次元細胞シートを作製し、GFP蛍光を観察したところ、酸素濃度が低いと考えられるシート内部において強い蛍光が観察された。これらの結果より、本研究で開発した低酸素応答型遺伝子発現システムは、低酸素環境に応答して遺伝子発現が誘導される細胞センサーとして利用できると考えられる。
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