研究領域 | 動的・多要素な生体分子ネットワークを理解するための合成生物学の基盤構築 |
研究課題/領域番号 |
26119715
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
内田 誠一 九州大学, システム情報科学研究科(研究院, 教授 (70315125)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | バイオイメージ・インフォマティクス / トラッキング / セグメンテーション |
研究実績の概要 |
本年度は,一定周期でたんぱく質を合成する機能を持った大腸菌について,その画像観察を介した自動定量化のために必要な要素技術として,セグメンテーション(領域分割)手法およびトラッキング(追跡)手法の研究開発を行った. セグメンテーションについては,大腸菌が互いに密接しているため,単純な二値化ではその検出精度に限界があった.そこで我々は大腸菌の形状に一定のパターンがあることに注目,すなわち大腸菌形状に関する事前知識を活用し,いわゆるパターンマッチング法に基づいた検出法を採用した.その結果,二値化やモルフォロジといった代表的な領域分割処理よりも,高精度な分割結果が得られた.ただし回転角の変化などに対応するため,妥当な検出精度を得るためには相当数のパターンを仮定しなくてはならず,計算量が膨大になるという課題は残った. トラッキングについても,安定結婚アルゴリズムを用いた隣接フレーム間での局所最適化に基づく手法に加え,ネットワークフローアルゴリズムを用いた全フレーム間での全体最適化に基づく手法を開発した.特に後者については,追跡対象の数が接触等によって変化した場合にも安定した追跡が可能になるよう,複数の最適化ステップからなる手法として設計した.実験を通して手法が所期の通り機能することを確認した. 大腸菌動画試料の採集に必要な機器の改善に時間を要したため,様々な画像を用いた定量的評価実験は来年度の課題であるが,以上のように要素技術開発は順調に進めることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り,画像を介した大腸菌群の挙動解析に必要となる,セグメンテーションおよびトラッキング法については,順調に開発が進み,精度も日々向上している.大腸菌群は分裂により急激に増殖するため,画像処理の対象としては極めて困難な部類に入る.こうした困難な問題に対して,大局的最適化や形状事前知識の活用といった,頑健性を期待できる方法論を積極的に導入し,実装の上,実験的評価ができた点は評価できる.一方,大腸菌があまりに密接し過ぎたり,動画像撮影のフレームレートが低すぎたりすると,セグメンテーションやトラッキングの精度の低下が起こるため,大腸菌の飼育状況および撮影状況から見直す必要が生じた.飼育状況を変化させるためには,非常に微小なる流路を再設計・実装しなくてはならなかった.さらに撮影のパラメータの微調整も必要であり,これらが重なったために,大腸菌画像の大量撮影には至らなかった.ただし,画像解析に有利となるよう,生物学側が歩み寄るという,最終的に高精度な成果を得るためには極めて重要なステップであったと考える.
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今後の研究の推進方策 |
来年度分を前倒してトラッキングにも着手しているので,手法に関する進捗に特段の問題は見られず,今後も高精度化を図るための工夫及び理論構築を続けていく予定である.前述の通り現状で最大の問題は解析対象画像の撮像である.来年度早々に大量撮像を成功裏に終了させたうえで,手法の定量評価を実施する予定である.なお,大腸菌のために開発した手法群は,大腸菌以外にも適用できる可能性があるため,それらの二次利用も視野に入れながら,広くバイオロジーへの貢献を試みる.
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