研究領域 | スパースモデリングの深化と高次元データ駆動科学の創成 |
研究課題/領域番号 |
26120502
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
島田 敏宏 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10262148)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | エネルギーデバイス / 価数変化 / キャパシタ / 疎性モデリング |
研究実績の概要 |
本研究は、二次電池、燃料電池、有機太陽電池など、エネルギーデバイス界面の動的電気特性のモデリングと実験の比較を行うことを目的としている。平成26年度は2年間の研究期間の1年目にあたることから、モデリング、データ解析アルゴリズムの開発、実際の素子界面観察を行った。 モデリングに関しては、論文1報(Jpn.J.Appl.Phys.53,088004(2015))を出版した。内容は、価数変化可能な電極を持つ蓄電素子(キャパシタ)の充放電特性を物理モデルを使って導き出したことと、耐圧が同じ場合にはエネルギー密度は高くならないことを見出したものである。最近、キャパシタの容量を高めるために価数変化可能なトラップを電極に貼りつけた素子が注目されているが、理論的解析は行われていなかった。上記論文が初めての解析となる。充放電特性が電池に似て最低電圧があることなど、実験を再現する結果が得られた。 データ解析アルゴリズムについては、電気自動車に搭載した二次電池のリアルタイム解析を念頭において、時間的にランダムな負荷をかけた際の電流電圧応答から回路の周波数応答(インピーダンススペクトル)を導き出す方法を考察した。ウェーブレット解析とベイズ推定を用いる方針を固め、プログラムを作成している。 実際のエネルギー素子界面観察については、有機無機複合太陽電池材料、蓄電素子等の電子顕微鏡観察を行った。有機無機複合太陽電池材料については、新規に合成し他界面の電子顕微鏡観察を行い、太陽電池特性との関連を議論した。この結果は、Organic Electronics 17,285(2015)に報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モデリングについては、二次電池とキャパシタの中間的なデバイスとして注目を集めていた価数変化可能な電極を持つ蓄電素子について考察を行った。充放電特性を導き出し、その結果、一定電圧まで放電すると電流が流れなくなるという二次電池に類似した特性を示すことがわかった。しかし、これまでの常識とは異なり、耐圧が同じ場合はエネルギー密度は純粋なキャパシタに比べて高くならないことを見出した。今後もエネルギー界面の物理モデルに関して徹底的な考察を行いたい。 データ解析アルゴリズムについては、実際にコードを完成するには至っていないが、方針(ウェーブレット解析とベイズ推定を用いる)を確立することができた。実験とデータ解析の両輪をうまく回すため引き続き努力したい。 実際の素子界面観察については、さまざまな素子の断面の作製を行っている。特に、これまで技術を持たなかったTEM用の断面試料作製技術を研究室として習得することができ、さまざまな素子界面のTEM観察をルーチンで行えるようになったことは大きな進展である。 以上をまとめると、本申請に関連した論文を2報出版し、来年度に向けて準備が整ったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
モデリングについては、引き続きエネルギー素子界面の構造・化学的性質と電気特性の関連について考察を進めるとともに、界面の量子力学的過程(電子・物質の動き)を動画として見せる方法を開発したい。さまざまなソフトウェアが公開されているので、その組みあわせ部分のプログラムを書けば教育上・研究上有意義な動画をつくることができると期待する。 データ解析アルゴリズムについては、プログラムのコーディングを行っている。できるだけ早く動くソフトウェアを完成させ、実際のデータ解析を行いたい。実際のデータ取得として、二次電池にランダムな負荷(充電も)をかけ、電流電圧の実時間応答を測定する。正弦波を直流負荷に重畳させる従来型のインピーダンス分光を用いて測定した結果と、ランダム負荷のデータ解析結果を比較し、本研究で提案した方法の有効性を検証するとともに、アルゴリズムを改良していきたい。 実際の素子界面観察については引き続き行い、微視的な構造情報とデータ解析結果の比較をひきつづき行っていく。 その他、エネルギーデバイスに関連して、可視光に透明な有機太陽電池の材料分子の設計も計算機探索で行う必要があることに気付いた。本領域に分子をグラフとして扱って機械学習を応用して物質を探索する研究を行っている研究者がいるので、勉強していきたい。
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