公募研究
本研究課題は,地震発生データを代表とする「マーク付き点過程」と呼ばれる特殊な時系列データに着目し,データ同士の本質的な構造を反映した距離尺度をスパースモデリングに基づきデータ駆動で学習する手法の開発と,開発手法によるデータ解析を通した知識発見を目的とするものである.マーク付き点過程に適切な距離尺度を定義する問題に対して,比較的容易に計算が可能な単純な距離尺度を複数準備して,これらの距離尺度に従い計算した複数の距離行列から情報を取捨選択して最適な距離尺度を設計するアプローチをとっている.本年度は,1. 神経科学において多数提案されている単純点過程のための距離尺度の整理と,マーク付き点過程への拡張と,2. 地震現象の研究者との情報・意見交換を中心に行なった.1. の成果は以下の通りである.神経科学分野においては,神経細胞の発火パターンの解析が重要な課題であり,この発火パターンは単純点過程のサンプルとみなすことが出来るため,単純点過程向けの距離・類似度尺度が多数提案されていた.本年度は,これらを整理・分類し,さらに各尺度をマーク付き点過程データに適用できるように拡張した.その上で,点過程同士の種々の距離尺度を計算するソフトウェア・パッケージを統計解析言語Rを用いて開発し,一般公開した.また,種々の距離尺度を結合する簡易的な手法も開発し,研究会にて発表した.2.の成果としては,領域内外で地震現象を専門とする研究者と交流し,セミナーにおいて討論を行なった.本活動は2015年度に実施予定の実データ解析において,地震活動の専門家からのコメントを受けつつ解析を行うために重要である.
2: おおむね順調に進展している
2014年度の成果として公開したソフトウェアパッケージは,関連分野の研究者及び実務家が自由に利用できる形態で公開してあり,当初の目的の一つである解析プログラムの公開は果たすことが出来た.今後は理論面での検討とソフトウェアの改善を平行して行う.新学術領域という性質を活かし,領域内の異分野の研究者との交流を広く行うことが出来た.スパースモデリングに基づくグラフ構造推定手法の開発や,カーネル正準相関分析手法の開発,情報論的データクラスタリング手法の開発等,領域内研究者との共同研究成果が複数あがっている.検討すべき課題は残っているが,全体としては概ね順調に進行している.
観測データそのものを用いて観測データ間に適切な距離構造を定める問題は,機械学習においてDistance Metric Learning(以下,DML)と呼ばれる一つの重要なトピックである.2014年度には多数のマーク付き点過程間の距離尺度を,単純点過程のための距離尺度を拡張することで定義し,それらを計算するソフトウェアを開発した.本年度はこの結果を利用し,まずマーク付き点過程の距離学習問題に対して既存のDML手法の適用可能性と限界を明らかにする.その上で,スパースモデリングを通してマーク付き点過程向けのDML手法を開発する.より具体的には,データからの知識発見に適した距離構造をデータ駆動でスパースモデリングの原理に基づき学習する方法論の開発を目指す.このために,L1ノルム正則化に代表される従来型のスパース性だけではなく,行列のランクや線形・非線形特徴空間における構造を考慮したスパース性の導入を検討している.マーク付き点過程向けの距離を最適設計するという研究自体,他に類をみないものであり,その研究過程では点過程という特殊な時系列構造に対するスパース性の概念に対する理論的考察も必要になるが,領域内の研究者と連携して研究を推進する方針である.また,開発した手法が実際の地震発生データを含む諸データに対してどの程度有効であるかの検証を,地震活動の研究者からの助言を受けつつ行う予定である.
マーク付き点過程同士の距離尺度計算ソフトウェア・パッケージ
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
Neural Computation
巻: 26(7) ページ: 1455--1483
10.1162/NECO_a_00603
巻: 26(9) ページ: 2074--2101
10.1162/NECO_a_00628
21st International Conference, ICONIP 2014, Kuching, Malaysia, November 3-6, 2014. Proceedings, Part II
巻: 8835 ページ: 26--34
10.1007/978-3-319-12640-1_4
24th International Conference on Artificial Neural Networks, Hamburg, Germany, September 15-19, 2014. Proceedings
巻: 8681 ページ: 145--152
10.1007/978-3-319-11179-7_19
巻: 8681 ページ: 113--120
10.1007/978-3-319-11179-7_15
http://cran.r-project.org/web/packages/mmpp/index.html