研究領域 | スパースモデリングの深化と高次元データ駆動科学の創成 |
研究課題/領域番号 |
26120519
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小池 克明 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80205294)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 地球統計学 / クリギング / 地質分布モデル / 金属濃度分布 / 鉱床成因 / 移流拡散方程式 / 黒鉱 / 松峰鉱床 |
研究実績の概要 |
金属資源の需要は年々増加しており,既開発鉱山の周辺における鉱床の広がり,および経済的価値の高い新規の金属鉱床の探査・開発がますます重要な課題となってきている。この課題に対処するには,①鉱床内・周辺における品位の高精度空間分布推定,②鉱床を形成した物理法則の解明の2つが不可欠である。これらを本研究の目的に掲げ,その解析対象として代表的な黒鉱鉱床である松峰鉱床を選び,77本のボーリングによる地質柱状図,および1457地点でのCu,Zn,Pb濃度データを用いた。対象領域の大きさは水平方向に500 m×1000 m,垂直方向に標高0 mから-300 mまでの範囲である。 まず,地質柱状図を10種の主要地質に分類し,地質分布モデルを作成した。次に,3種の金属濃度データのバリオグラムを求めたところ,いずれも球モデルで近似できる空間的相関構造を有することが見出され,その水平方向の相関距離は垂直方向の倍以上長いことがわかった。これは鉱液の水平方向への広がりに起因する。多変量地球統計学の適用によって,金属濃度の3次元分布を推定し,これと地質分布モデルとを統合した。その結果,高濃度部は黒鉱と黄鉱の分布域に重なるとともに,これらの斑状の分布を繋ぐように水平方向に連続することが明らかになった。 次に,鉱液の移動と金属の沈殿は移流拡散現象で近似できるものとし,濃度分布から移流速度と拡散係数を求めた。移流速度に関しては鉛直上向き成分が大きく,珪鉱と流紋岩の分布域でこの方向ベクトルが連続するという特徴が現れた。これは鉱液の主要なパスに対応する可能性がある。また,拡散係数の符号の空間分布は,概ね浅部ほど濃度が高いという傾向に整合している。さらに,この移流拡散方程式とクリギング式とを組み合わせ,物理法則を考慮した金属濃度の空間分布推定が可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的を達成するために,①多変量地球統計学の改良,②支配微分方程式の特定,③物理法則を取り入れた空間モデリング法の開発,④空間モデリグ法の黒鉱鉱床データへの適用,および⑤品位分布のダウンスケーリング,という研究項目を設定した。まず①に関して,地質モデルと品位データとの関連性が見出され,この相関性を考慮することで多変量クリギング手法を改良できた。②の検討では,黒鉱鉱床を形成した熱水の上昇・拡散を表すのに適切な微分方程式を特定でき,これを③でクリギングに取り入れることが可能になった。これらの手法を,上記の成果のように実際の鉱床データに適用し,Cu,Pb,Znの濃度分布の特徴を明らかにできた。よって,④を実行できた。さらに,⑤に関連し,対象とした鉱床内で採取地点が異なる10個の鉱石試料を取得して,この顕微鏡観察により,ミリメートルオーダーでのCu,Pb,Znの濃度分布を計測した。得られた濃度データと③の手法を用いて,微小領域での品位分布の推定を行っているところである。 以上の取り組みと研究成果から,進捗状況は概ね順調と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
物理法則と地球統計学を組み合わせた新たな空間モデリング法(SPG:Spatial modeling by joint use of Physical law and Geostatistics)の開発を試みたが,まだ品位分布の推定精度は不十分であり,完成には至っていない。そこで,まずクリギング式への物理法則の組み込み方を改良し,今年度の黒鉱鉱床データを用いてSPGの高精度化を図る。 次に,バンドン工科大学の研究協力者と共同で,SPGをインドネシアの2つの鉱山に適用し,それぞれタイプが異なる金属鉱床の形成プロセスを表す微分方程式を特定するとともに,NiとCu濃度の空間分布を詳細に明らかにする。いずれの鉱山からも探査ボーリングコアと露頭調査から試料を採取し,複数の薄片を作成してSEMやXRFによる濃度分布解析を共同で実施する。
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