本研究が目的とする「分子動力学シミュレーションデータと1分子FRET計測データの融合によるタンパク質動態解析の開発と応用」のために以下の4つの研究を行った。(1) 地球物理・気象分野で開発されたデータ同化の方法論を生体分子の1分子FRET計測へと展開し、その手法を開発した。擬似1分子FRET計測データを用いてその有効性を示し、論文として発表した。(2) タンパク質動態を効率良くサンプリングするための新たな粗視化モデルパラメータ決定法を開発し、論文として発表した。(3) 開発した粗視化モデルを用いてタンパク質構造変化のシミュレーションを実施し、動態を捉える上で、様々なサンプリング法で用いられるcollective variable(今の場合主成分座標)が何次元必要なのかを詳しく調べた。その結果、タンパク質構造変化においては少なくとも10次元以上必要であることを示し、論文として発表した。(4) (1)で開発したデータ同化手法を、全原子モデルを使って実際の計測データへ応用するために、より実用的な方法論へと展開した。具体的にまず、蛍光分子をラベルしたWWドメインの全原子シミュレーションを長時間(合計で300マイクロ秒以上)行い、十分な数のフォールディングイベントをサンプルした。次に、得られたトラジェクトリを統計解析し、ダイナミクスをマルコフ遷移として近似するマルコフ状態モデルを構築した。その後、構築したマルコフ状態モデルを隠れマルコフモデルとして、1分子FRET計測データを使った機械学習を行い、遷移行列パラメータをアップデートした。その結果、FRETデータをよく再現するマルコフ状態モデルを構築することができた。今後、この結果から得られた新たなフォールディングダイナミクスに関する知見を論文として発表する。
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