スパースモデリングを用いて認知機能を知覚と記憶の相互作用の観点から取り扱う枠組みを、電気生理学データに基づくデータ駆動アプローチで構築することを目指す。我々の社会生活を支える脳の重要な機能の1つ、顔の個体や表情の認知は、入力された視覚情報から、髪、眉、眼、鼻、口などの要素を取り出し、その組み合わせとしての顔を知覚するプロセスと、過去に見た経験により形成された記憶から想起された顔と今見ている顔とを照合するというプロセスの統合によって可能になると考えられる。これまでの研究から、知覚のプロセスには側頭皮質の顔細胞からの情報が、記憶のプロセスには内側側頭葉の概念細胞の情報が関与していると考えられる。個体認知に関わるニューロンを推定する手法を構築するため、顔の倒立提示により個体認知の成績が低下するという心理学的現象に基づき、顔の倒立提示が側頭皮質の情報処理に与える影響を調べた。その結果、側頭葉視覚連合野の神経細胞は、顔を倒立で見た時、顔であるという情報は獲得できるが、個体や表情についての情報を獲得することは困難になることが分かった。さらに、個体認知の神経機構を明らかにする次のステップとして、顔の倒立提示によって保たれる大まかな分類情報と失われる情報に着目し、顔画像のコーディングの特性を調べた。ニューロン集団として大まかな分類が観察された区間の活動について、各々のニューロンがヒトとサルの分類に寄与する度合いと正立と倒立の分類に寄与する度合いを調べた。その結果、ヒトかサルかの大まかな分類に寄与するニューロンと顔の倒立提示の影響を受けるニューロンが異なることが示唆された。ニューロン集団がコードする顔画像の特徴量を検討した結果、サルとヒトの分類には顔の幅や長さが、ヒトの個体分類には目から前髪までの距離や顔の幅が、サルの表情分類には顔の長さに加えて口の大きさが効果的であることが示唆された。
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