本研究では、薬物依存研究で汎用される条件付け場所嗜好性試験(CPPテスト)に拘束ストレス負荷を組み合わせることで、動物(ラット)の薬物欲求行動にどのような影響を与えるのか、さらに、その脳内メカニズムがどのようなものかを明らかにすることを目的としている。 昨年度の研究から、CPPテストのポストテストの直前に30分間の拘束ストレスを負荷すると、薬物欲求行動の指標であるCPPスコアは、非負荷群に比較して有意に増大すること、このCPPスコアの増大には青斑核から背外側被蓋核(LDT)へのα2およびβ受容体を介したノルアドレナリン作動性神経伝達、および、LDTから腹側被蓋野へのニコチン性およびムスカリン性アセチルコリン受容体を介したコリン作動性神経伝達が重要な役割を果たしていることを明らかにした。そこで本年度は、腹側被蓋野からの情報伝達がどこに、どのように伝えられることによってCPPの増大に寄与するのかを検討した。その結果、内側前頭前皮質でのD1受容体を介したドパミン神経伝達がCPPスコアの増大に関与していることが分かった。 さらに、ノルアドレナリンによるLDTニューロンでの興奮性上昇のメカニズムをコカインあるいは生食投与後のスライスで調べたところ、生食投与群ではノルアドレナリンはIPSCに影響を与えなかったが、コカイン投与群ではIPSCを減弱させることが分かった。このIPSCの減弱は、プレシナプスのα2受容体を介したメカニズムによることも分かった。 以上の結果は、ストレス負荷により遊離の亢進したノルアドレナリンがLDTコリン作動性ニューロンを脱抑制によって活性化し、それによって腹側被蓋野で遊離されたアセチルコリンがドパミンニューロンを、さらには、ドパミンによる内側前頭前皮質ニューロンの活性化を引き起こし、ストレスによる薬物欲求行動増大に至る可能性を示している。
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