研究領域 | 予測と意思決定の脳内計算機構の解明による人間理解と応用 |
研究課題/領域番号 |
26120703
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
坂本 一寛 東北大学, 電気通信研究所, 助教 (80261569)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | サル / 前頭葉 / 形操作課題 / 多重電極 / 局所電場電位 / 電流源密度 |
研究実績の概要 |
本研究では、領野間・層間情報流の解析による前頭葉の予測と意思決定の神経回路機構の解明を目指す。この目的を達成するために、予測と意思決定を要求する行動課題である形操作課題と呼ばれる課題遂行中のサル外側前頭前野と背側運動前野から、多数の記録点が正確な間隔(200μm)で配置された電極(以下、多重電極)を用い、大脳皮質各層から神経活動を同時測定し、局所神経回路内の情報の流れを検討する。 平成26年度は、特に、外側前頭前野から記録された脳波と同じ比較的遅い周波数成分(数Hz~数百Hz)の神経活動である局所電場電位(以下、LFP)の解析を行った。隣り合う記録点間でLFPの2階差分を計算すると、局所のシナプス入力を主に反映すると考えられる電流源密度(以下、CSD)が推定できる。解析の結果、最初に提示される形(サンプル形状)の出現直前に、皮質層構造の深い層で興奮性のシナプス入力を反映すると考えられる電流の流れ込みが観察された。これは、サンプル形状出現を予測していることと関連すると思われる。さらに、この電流の流れ込みのウェーブレット解析を行うと、この成分はδ~θ~α帯域の成分を持つことが明らかとなった。このことは、関連する研究との対応を取ると、サンプル形状出現時に、課題のタイミングとの引き込みが起きていること、サンプル形状を作業記憶に取り込もうとしていること、課題に無関係な処理を抑制しようとしていることを示唆している。一方、運動実行期が近づくと、意思決定過程を反映していると考えられるβ帯域等が強く出現することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在まで、前頭前野におけるシナプス入力の層間情報流について明らかになった。特に、それらの周波数成分を明らかにしたことは、予想を上回る成果であり、ヒトでは極めて低い精度でしかわからない前頭前野に特徴的な脳波の周波数成分が、いつ(課題のどのタイミングで)どこで(どの層で)生じたかを極めて詳細に明らかにできることを意味している。また、局所電場電位(以下、LFP)の2階空間差分を取るという古典的な電流源密度(以下、CSD)解析の持つ理論的な欠陥を埋める手法、つまり、電流源の推定を逆問題として捉えたより高度なCSD解析法についても、その手法を確立し実験データに適用することが可能となった点も、データの信頼性を上げるという意味で、予想を上回る成果であった。また、予備的ながら、シナプス入力を反映すると考えられる電流源と必ずしも一致しない前頭前野の神経細胞活動の発見、CSDを用いた前頭前野のカラム構想とも言える構造の解明、運動前野のLFPの周波数成分の課題依存性の変化についても、結果が得られた点は、予想を上回るものであった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、運動前野における局所電場電位(以下、LFP)の電流源密度(以下、CSD)解析およびウェーブレット解析によるシナプス入力の層間情報流の解明、前頭前野・運動前野における神経細胞活動の課題依存性の解明、両領野間のLFPの相互相関解析による領野間情報流の解明、LFPと神経細胞活動の相互相関解析による局所神経回路の入出力関係の解明を行う予定である。また、これらの結果をサポートするためのものとして、局所神経回路活動の時空間パタンをラベルフリー(蛍光を発生させるために遺伝子を改変したり有毒な色素を注入したりする必要がない手法)にイメージングするための手法の確立、LFPのゆらぎと背後にある神経回路の力学的安定性との対応関係を推定するための理論の探索等を推進する予定である。以上を持って、予測と意思決定における前頭葉(前頭前野と運動前野)の領野間・層間の情報の流れを、かつてない精度で詳細に解明する予定である。
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