公募研究
嗅覚、視覚、聴覚といった異なる感覚様式によって形成される記憶は、強度や持続時間がそれぞれ異なる。このように、記憶によって導かれる予測価値に生じる差異が、どのような神経回路メカニズムによるものであるのかを解明することは、生物の生存に必要不可欠である適応的行動の発現を理解する上で極めて重要である。 本研究では、色と匂いという2つの感覚様式が同一の脳構造で処理されているのか、あるいは独立した記憶中枢で処理されることを明らかにするために、キノコ体の関与を第一に検討した。平成26年度は、我々が新規に立ち上げた嗅覚連合学習との比較が可能な視覚連合学習システムを用いて、視覚記憶がキノコ体で処理されているかどうかを検討した。具体的には、キノコ体神経細胞を特異的に標識したGAL4系統を用いて、Shibire[ts]を発現させ、温度変化により視覚記憶もしくは嗅覚記憶の読み出し時にのみ機能阻害を行った。さらに、投射パターンの異なる8種類のキノコ体神経細胞種を個別に操作することで、異なる感覚様式の記憶がキノコ体内の細胞種により区別されている可能性を検討した。これらの解析により、視覚記憶と嗅覚記憶に選択的に働くキノコ体神経の存在が確認された。また、報酬または嫌悪刺激を受け嗅覚記憶を誘導するドーパミン神経が、視覚記憶の形成にも重要であることを明らかにした。このことは、視覚記憶は嗅覚記憶と同様キノコ体で形成され、感覚様式の差はキノコ体内の異なる細胞群で表現されていると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
自動化したハイスループット実験系を活用したことで、実験データの収集及び解析を大幅に効率化したため、順調に研究成果が得られている状況である。
昨年度に得られた結果を発展させ、平成27年度は視覚情報がどのようにキノコ体に伝達されるかを明らかにする。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 6件)
Proc Natl Acad Sci U S A.
巻: 112(2) ページ: 578-83
10.1073/pnas.1421930112
eLife
巻: 3 ページ: e04580
http://dx.doi.org/10.7554/eLife.04580
巻: 3 ページ: e04577
http://dx.doi.org/10.7554/eLife.04577
巻: 3 ページ: e02395
http://dx.doi.org/10.7554/eLife 3:e02395