研究実績の概要 |
記憶には、色や音、匂い、味、手触りといった様々な感覚成分が一体となって結びついている。これらの感覚と紐付けられた記憶は、同じ報酬や罰によって形成されるにも関わらず、それぞれの強度や性質が全く異なる。記憶によって導かれる予測価値の差異が、どのような神経メカニズムによるのかの解明は、適応的行動の発現を理解するうえで重要である。本研究では、ショウジョウバエの砂糖報酬・電気ショック罰情報と感覚情報の統合の場である脳構造キノコ体に焦点を当て、色と匂いという2つの感覚情報が処理される神経回路の比較を通じて、このような予測価値の差異が生じる要因を探った。 平成27年度は、訓練時にキノコ体の標的細胞を単一細胞レベルで機能阻害することで、視覚・嗅覚記憶における報酬・罰回路を構成するドーパミン神経をそれぞれ同定し、これらの解剖学的、行動学的な比較を行った。この結果、報酬や罰を伝達する神経細胞の機能を妨げると、嗅覚と視覚の両者ともに、連合記憶の形成に支障が生じることが確認された。すなわち、色と匂いについては独立した記憶中枢で処理されるのではなく、両者とも同じ神経回路において一括で処理されるということが明らかとなった。この成果は、Vogt et al,. eLife, 2016に代表される4編の原著論文として報告した。
|