研究領域 | 予測と意思決定の脳内計算機構の解明による人間理解と応用 |
研究課題/領域番号 |
26120726
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
中村 加枝 関西医科大学, 医学部, 教授 (40454607)
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研究期間 (年度) |
2014-06-27 – 2016-03-31
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キーワード | ストレス / 背側縫線核 / セロトニン / 前頭葉 / 眼球運動 |
研究実績の概要 |
1.ストレスによる報酬・遅延情報処理への行動学的影響を明らかにできた。 3頭のサルに眼球運動課題を訓練し、異なるストレス下における行動パラメータの変化を比較した。遅延選択課題では、中心を注視していると左右に異なる視覚刺激(Cue)が200ms呈示される。遅延期間の後、中心の注視点が消えるのでこれがgo signalとなり、左右どちらかを眼球運動によって選択する。一つの視覚刺激は報酬、もうひとつは音と関連する。同様に、音と嫌悪刺激であるエアパフ、報酬とエアパフ、と3種類のペアを用意し、ブロック形式として試行を行う。その結果、サルは結果に基づき次第により良い刺激を選ぶように学習した。同時に、ストレスのレベルの指標として自律神経反応として心拍数と瞳孔径をモニターした。 その結果、エアパフと関連づけられた刺激が呈示されると、選択行動にエラーが生じ、不合理な選択(エアパフを選択)が増加した。さらに、心拍数が有意に増加し、注視が不整になることがわかった。特に、報酬とエアパフのペアでは正しく選択すれば報酬が得られるにもかかわらず、心拍数の増加や注視の不整が発生した。 以上より、動物にストレスが生じていることを客観的に測定するシステムを構築し、それが意思決定や自律神経反応に影響を及ぼすこと示すことができた。 2.神経生理学的探索の準備を行った。 遅延選択課題遂行中のサルの背側縫線核等、ストレスに関与する部位の神経活動を記録するため、サルの構造MRIを取得し、記録用チェンバー取り付け手術を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の1つ目の目標「ストレスによる報酬・遅延情報処理への行動学的影響」を明らかにできた。また、2つ目の目標である「ストレスの客観的な測定法の開発」が実現した。3頭のサルに眼球運動課題を訓練し、異なるストレス下における行動パラメータの変化を比較できた。嫌悪刺激と関連づけられた刺激が呈示されると、選択行動にエラーが生じ、不合理な選択(エアパフを選択)が増加した。さらに、心拍数が有意に増加し、注視が不整になることがわかった。特に、報酬とエアパフのペアでは正しく選択すれば報酬が得られるにもかかわらず、心拍数の増加や注視の不整が発生した。 さらに、今後行う神経生理学的計測の準備も順調に進んでいる。 これらのことから、研究課題はおおむねに順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
H26年度に開発した行動課題・測定システムを用い、H27年度は、ストレスによる背側縫線核における報酬・遅延情報処理への神経生理学的影響を計測する。 行動指標と同時に、脳幹の背側縫線核から神経活動を記録し、以下に焦点を当てて解析する。(1)ストレスのレベルによって基底の発火が変化するか。申請者のこれまでの実験によると、パブロフ型条件付け課題において、報酬と嫌悪刺激のコンテキストによって背側縫線核細胞の発火率が持続的に異なることが示された。嫌悪刺激のコンテキストはストレスであるから、眼球運動課題遂行中の神経活動も持続的に変化する可能性が高い。また、課題関連活動や正負の報酬予測誤差の変化も基底の活動の変化によって大きく変化する可能性がある。(2)前頭葉の変容により行動課題のパーフォーマンス、自律神経反応、背側縫線核の神経活動が変化するか。 以上により、ストレスレベルにより意思決定機構が変化するメカニズムを明らかにする。
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