研究実績の概要 |
本研究の目的は、「意思決定のための価値の生成と統合の脳機能」の解明にある。目的達成に向け、数理モデル提案と実験検証を合わせて行うことに留意し、研究を進めた。この目的は二つに大別できる。 目的Iは価値の「学習」、特に「価値予測を形成する脳内入力の表現学習」と価値学習の関係に焦点をあてている。ここではドーパミン神経細胞活動を題材に、従来想定の“直観的、習慣的なモデルフリー脳機構”を置き換え、「表現学習と統合されたモデルフリー学習」の提案/検証を行う。この着想自体が国際的にもユニークであり、この構想と将来の研究の方向を提案したオピニオン論文 (Nakahara H, 2014, Current Opinion in Neurobiology. 25: 123-129) は、様々な方面から良い反響を得た。さらに、この構想の実例として、新しい強化学習の脳計算モデルを構築し、それを実験データと比較した論文も発表した (Kaveri S, Nakahara H, 2014, PLoS ONE. 9(10): e108142.)。 目的IIは価値に基づく「行動選択」、特に「複数の価値統合による行動選択」に焦点を当てている。特に社会的意思決定をとりあげ、異なる起因で生成された複数の価値統合がそれぞれ脳内のどこで処理されるかの脳機能解明を目指している。ヒトfMRI実験では、従来想定の価値意思決定試行に加え、他者への報酬に起因する価値付加試行を用意し、そこでの価値意思決定を検討している。さらに他者価値付加試行の検討のために、自己価値付加試行も実験課題に入っている。これらの試行を用いて、脳の情報処理を深く解析できるモデル化解析手法を適用した。なお、これらの予備的成果は、複数の学会発表で高い評価を得ることができた。また、学術論文執筆に向け、より徹底した実験データの取得と解析も進めることができた。
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