科研費新学術領域研究「古代アメリカの比較文明論」(平成26-30年度、領域代表者:青山和夫)の主要な研究成果を国民・社会にわかりやすく還元・紹介するために、4つの計画研究の研究代表者4名(青山、米延、坂井、鈴木)を編著者として学術書『古代アメリカの比較文明論:メソアメリカとアンデスの過去から現代まで』(京都大学学術出版会、444頁)を令和元年9月に公刊した。「古代アメリカの比較文明論」プロジェクトでは、従来の世界史研究で軽視されてきた古代アメリカ文明について新たな視点や手法による共同研究を推進して比較文明論の新展開を目指した。考古学、歴史学、文化人類学等の異なる分野の人文科学と自然科学の多様な研究者が集う、文理融合の共同研究である。本書では、「古代アメリカの比較文明論」プロジェクトのメンバーが最新の調査成果だけでなく、これまで30年以上にわたり中南米で行った調査成果の一部も盛り込んだ。国内外においてメソアメリカ文明とアンデス文明を一緒に扱った出版物は極めて少ないので、その空白を少しでも補うために本書を出版した。本書は、植民地時代以降も、それ以前と同様に古代アメリカ文明が繰り返し資源として利用されていることを示した。古代アメリカ文明は、従来16世紀のスペインの「征服」によって消滅したと想定されてきた。しかし本書はこれまで支配的であった軍事・政治的「征服」とは異なる、「資源化」という観点から文明の盛衰や終焉を考察する視点を新たに提示した。本書は先スペイン期のメソアメリカ文明とアンデス文明の比較研究だけでなく、植民地時代や現代の中南米の人々が古代文明を資源化して再解釈する営みにも詳しく論述する日本初の書籍である。執筆者は、専門知識をもたない人たち、特に若い学生も読めるように平易な表現を心がけることで主要な研究成果を幅広い読者に明快かつ親しみやすく発信した。
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