2018 Fiscal Year Annual Research Report
細胞内外における局所温度の最先端計測技術の開発と実践
Project Area | Integrative understanding of biological phenomena with temperature as a key theme |
Project/Area Number |
15H05931
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
原田 慶恵 大阪大学, 蛋白質研究所, 教授 (10202269)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡部 弘基 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (20455398)
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Project Period (FY) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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Keywords | 生物物理学 / 細胞内温度計測 / 蛍光寿命イメージング / 蛍光性温度センサー |
Outline of Annual Research Achievements |
最も基本的な物理量である温度は、細胞内分子の状態や生化学反応の活性を司ることで、細胞機能や生体の主要生理機能に強く影響する。従来、細胞内温度の変動は完全に未知であったが、我々はこれまでに高性能な蛍光性温度センサーと高感度かつ高い定量性を備えた蛍光イメージング技術を用いて、単一細胞内の温度測定法や生細胞内における温度分布のイメージング法を開発した。これにより、単一生細胞内には細胞機能に関連した有意な温度変化や、空間的に不均一な温度分布が存在することを発見した。しかし、このような細胞内温度の不均一性を保つメカニズムやその生理的意義は一切不明である。本研究では、細胞内局所温度変化に着目して、外部要因による変動の感知あるいは自発的な誘起と維持を担うメカニズムを解明するとともに、方法の性能と応用性を改良して、リズムや体温調節といった高次生命現象に対して実践することで生理的意義を解明することを目的としている。 これを達成するために、神経細胞を含む多数の培養細胞における温度分布を定量的に観察するシステムの開発と応用を行なった。また、細胞内局所を人工的に加熱する方法を神経細胞の分化や培養細胞内ストレス顆粒(SG)形成といった現象に応用することで、細胞内温度シグナリングの分子機構の解明に応用した。これらの検討により、新規発熱化合物の発見や、神経機能における温度シグナリングの発見、細胞内局所発熱依存的なストレス顆粒形成における分子機構の解明を達成した。また、新学術領域内研究者との共同研究を進めるため、種々細胞内における温度イメージング法の開発や細胞内分子と温度の同時イメージングを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、細胞膜透過型蛍光性ポリマー温度センサー(FPT)を用いることにより、多数の細胞内における温度可視化法を開発した。これを用いて、発熱化合物のスクリーニング系を確立した。約1300化合物の薬理作用既知化合物のライブラリーを用いて、一次スクリーニングとしてプレートリーダーによる蛍光検出を、次に蛍光寿命イメージングによる二次スクリーニングを行なった。この結果、新規発熱化合物群を得ることに成功した。 次に、細胞内温度シグナリングの検討を行なった。分化誘導した神経様細胞PC12や分散培養神経細胞(ニューロン)に対し、FPTと蛍光寿命イメージング顕微鏡法(FLIM)を用いて、温度イメージングを行なった。この結果、他の培養細胞と共通した温度分布の特徴に加えて、神経細胞特異的な温度変動を発見した。これの細胞機能への貢献を解明するため、細胞内局所加熱を行なった。この結果、人工的加熱により神経機能に重要な突起伸長が亢進した。さらに細胞内温度変動を阻害したところ、伸長が阻害されたことから、神経細胞分化における温度シグナリングの存在を解明した。次に、これまでに解明した細胞内温度シグナリングであるストレス顆粒(SG)形成について、その分子機構を検討した。SG構成分子であるmRNAの一分子直接観察により、SG形成時のmRNAの動態の変化およびSG形成時の細胞内局所的な発熱の動態を詳細に解析した。この結果、細胞内局所加熱により翻訳中mRNAの複合体が不安定化し解離することがSG形成開始のスイッチとなることを明らかにした。 さらに、新学術領域内研究者との共同により線虫個体、ニワトリ脊髄後根神経節、マウス脳スライスにおける細胞内温度イメージングを行なった。また、局所温度操作によるTRP チャネルの活性化のための実験系構築や、ショウジョウバエ細胞内における温度イメージング法の開発と応用を行なった。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、細胞内温度計測法をさらに発展させるため、これまでに開発した細胞内温度計測技術の改良と応用を進める。特に、今年度は最近開発された超高感度蛍光寿命イメージングシステムを導入することで、細胞内の温度イメージングの実時間観察を行う。これまでは定量的な温度計測を行うには蛍光寿命計測に多数の光子が必要であり、蛍光寿命イメージングはスナップショットに限定されてきた。これに対し、高感度検出器やデジタルノイズ除去による超高速蛍光寿命計測により蛍光寿命イメージングのタイムラプス観察を行う。これにより細胞自発的ないし人工的加熱時の温度変化をリアルタイムイメージングする。 さらに、細胞内温度変化に対する細胞応答(温度シグナリング)を検討するために、温度イメージングに加えて、これまでに開発した赤外レーザー照射や金ナノ粒子への可視光レーザー照射による細胞の任意の場所を定量的に加熱する方法を種々の細胞へ応用し温度シグナリングの分子機構を検討する。特に、これまでに発見した神経機能やストレス顆粒形成時における温度シグナリングの特徴を詳細に検討するとともに、種々の化学刺激や阻害剤、動作分子の直接観察により温度シグナリングのメカニズムを調べる。また、細胞内の特定の細胞小器官の過熱を行うことにより、形質膜の局所温度操作によるTRPチャネルの活性化や、温度変化依存的代謝制御を引き続き進める。 また、細胞内温度の時空間的不均一性の原理を探るため、細胞内熱動態に与える影響を細胞骨格や細胞内高分子の視点から詳細に解明する。これにより、細胞内における熱と分子の相互作用様式を解明する。
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Research Products
(19 results)