2018 Fiscal Year Annual Research Report
消化管ペプチドから見た情動・社会行動の発露、こころのゆらぎと変容の神経内分泌機構
Project Area | Creation and Promotion of the Will-Dynamics |
Project/Area Number |
16H06404
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
乾 明夫 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 特任教授 (80168418)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浅川 明弘 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (10452947)
須藤 信行 九州大学, 医学研究院, 教授 (60304812)
井上 浩一 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 准教授 (80345818)
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Project Period (FY) |
2016-06-30 – 2021-03-31
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Keywords | 消化管ペプチド / 内臓環境 / 腸内細菌叢 / ミクログリア / 食環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、意志力に掛かる脳機能の発現を、内臓環境、特に消化器系を巡る環境が制御する分子・神経基盤を探究することをねらいとしており、30年度では、以下の研究項目を軸に、消化器系が意志力の発現に与る脳内環境のホメオスタシスを調節する腸・脳間情報伝達系の分子的基礎の解明に当たった。 (1) 鹿児島大の乾、浅川らは、グレリンなどの消化管ペプチドとその自己抗体の動態をヒト、マウスの血液で解析し、ホルモンの生理活性が意志力の発現に連関すること、グレリンがSIRT1を活性化し、脳内ミクログリアの毒性転化を抑制することを確認した。また、マウスにおいてpalatable foodを用い、側坐核のCX3CR1、ΔFosBの発現が減少することから、fractalkine-CX3CR1シグナルが意志力に関与している可能性を見い出した。さらに、緑葉タンパク由来ペプチドやhelicobacter pyloriが産生するVacAが情動に影響することを見い出した。 (2) 九大の須藤らは、前年度に引き続き、腸内細菌叢による意志力制御の分子的基礎の解明に当たった。即ち、神経性やせ症患者の腸内細菌叢を移植した人工菌叢マウスが、体重増加不良を来すとともに、ストレス耐性が脆弱であることを見出した。また、同マウス菌叢の遺伝子解析により、病態を呈する菌種を特定するとともに、メタボローム解析により、トリプトファン代謝物質が増加していることを見い出し、内臓環境が意志力の発現を制御する可能性を指摘した。 (3) 名古屋市大の井上、植木らは、グレリン、レプチンなどの消化管ペプチドがミクログリアの毒性転化を伴う脳内炎症反応を抑制する一方で成体脳神経新生を増幅することを、老化促進マウス及びミクログリア-神経幹細胞培養系で確認した。これらの知見は、消化管ペプチドが神経免疫活性を調節することにより意志力の発現・維持に影響を及ぼすことを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究者らは、30年度までに、意志力の制御に作動する消化管ペプチドや腸内細菌叢などの内臓環境因子の抽出をほぼ完了し、それらが意志力の発現・維持に影響を及ぼす海馬を始めとする脳領野や神経回路などの作用点の同定も順調に進展している。また、意志力の問題を抱える患者からの資料、データの収集、患者菌叢を移植した人工菌叢マウスなどの意志力の障害に連関した内臓環境病態モデル動物の創出などの成果も上げられている。今後は、特定の内臓環境因子が、意志力に掛かる脳領野、神経回路の病変を来す分子・神経病理の精解が見込まれることから、本研究は、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
31年度(令和元年度)では、30年度までに見出された内臓・脳相関の分子的基礎を同定することをねらいとし、以下の取り組みを行う。(1) 鹿児島大の乾、浅川らは、マウスを用いてグレリン、グレリン自己抗体の血中動態を観察しつつ、社会性、運動性に関する行動学的解析を行い、意志力発現に及ぼす影響を検討する。また、摂食障害、肥満症、ひきこもり患者で血液中のグレリンや炎症性サイトカインなどの動態と意志力に掛かる社会的行動、運動などとの連関を解析し、グレリンの意志力マーカーとしての有用性を検討する。さらに、palatable foodを用いたマウスによる報酬系-意志力の解析、家族内の人間関係に焦点を当てた意志力障害因子の解析、運動・睡眠習慣と意志力との関係に焦点を当てた近赤外線分光法を用いた脳画像解析を行う。(2) 九大の須藤らは、意志力の障害に連関する代謝物質の解析、腸内細菌種の増殖を抑制する薬剤の探索や機能性食品の開発などを行い、意志力の障害の快復と増進を図ることを目標とする。(3) 名古屋市大の佐久間、植木らは、成育社会環境が腸管ペプチド産生に影響を及ぼし、脳内免疫系の機能を調節することによって意志力を制御する生理を、腸管粘膜バリア、腸管神経叢などの動態に着目しつつ解析する。鹿児島大学、九州大学、名古屋市立大学の3施設においては進行状況を共有し、緊密に連携しながら共同研究を進めていく。
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Remarks |
名古屋市内高校生10名への脳神経回路の形態学的解析に関する研究指導を、名古屋市大医学研究科統合解剖学分野にて井上、植木らが、30年8月5日に公募により行った。
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Research Products
(16 results)