2021 Fiscal Year Annual Research Report
古代人ゲノム配列解析にもとづくヤポネシア人進化の解明
Project Area | Deciphering Origin and Establishment of Japonesians mainly based on genome sequence data |
Project/Area Number |
18H05507
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
篠田 謙一 独立行政法人国立科学博物館, その他部局等, 名誉研究員 (30131923)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 丈寛 金沢大学, 医学系, 助教 (10558026)
安達 登 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (60282125)
角田 恒雄 山梨大学, 大学院総合研究部, 特任助教 (80446575)
神澤 秀明 独立行政法人国立科学博物館, 人類研究部, 研究員 (80734912)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | 古代ゲノム解析 / 縄文人 / 弥生人 / 次世代シークエンサ / 日本人の成立 |
Outline of Annual Research Achievements |
本科研費では、2021年度は5ヵ年計画の4年目にあたるが、昨年に引き続いて、新型コロナウィルス感染症の蔓延によって活動が著しく制限されることになった。そのため基本的には新規の分析用サンプルの収集には力を入れず、昨年度までに収集したサンプルの分析を中心に研究を進めることにした。ただし、昨年度に発掘が終了していた北海道伊達市の有珠モシリ貝塚から出土した縄文晩期の集団埋葬人骨については、新規にサンプリングを行い、DNAの抽出とミトコンドリアDNAの解析までを進めた。また、幾つかの遺跡から追加のサンプリングを行った。 これまでの解析で、次世代シークエンサを用いてミトコンドリアDNAの全配列を決定しているサンプルから、コンタミの影響が少なく核ゲノムの解析が可能と判断した個体についての核ゲノム解析を進めた。特に熊本大学医学部が所蔵する縄文から弥生、古墳時代にかけての複数の人骨の解析では、すでに核ゲノムデータの取得を完了しており、同一地域における集団の遺伝的な変遷を追究できるだけのデータを揃えることができている。その他にも、鳥取県と岡山県の合計9箇所の古墳から出土した人骨の核ゲノム解析も行っており、集団の特徴とともに同一墳墓に埋葬された複数個体間の血縁関係の解明も目指している。また、沖縄の貝塚時代人骨や鹿児島女子短大が所蔵する南九州の古代人骨のゲノムも解析し、南西諸島における集団の形成を古代ゲノムデータで解明する準備を整えた。更に本年度は、縄文時代の合葬の実体を解明するために、科博所蔵の岩手県蝦島貝塚出土の縄文人骨についての解析も開始した。そのほかにも、これまでミトコンドリアDNAの解析を進めていた全国の遺跡から出土した古人骨について、更に核ゲノムの解析を行っている。本年度においても、韓国のサンプルも含め、核ゲノムデータが揃ったものに関しては、逐次報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルス感染症の蔓延で、発掘調査などの活動が著しく制限されたが、感染が終息している時期にサンプリングを行い、当初予定していた分析を進めることができた。これまでの研究で日本人の形成過程については、既に解析中の古人骨ゲノムデータを元にして、概略を明らかにすることができると考えている。また、これまで全国各地の縄文時代と弥生時代の遺跡から出土した人骨のゲノム解析を進め、本土日本(本州・四国・九州)では、在来集団と渡来集団の混血が時代や地域によって大きく異なっていることを見いだしている。そのプロセスは古墳時代にも継続していることが明らかとなったので、昨年度は古墳時代の人骨のゲノム解析を中心に進めた。これまでの活動によって現代日本人の形成に一番重要な縄文から弥生、古墳時代人骨のゲノムデータを取得するメドを付けることができており、計画の最終年度となる本年度は、新たな解析は年度途中までに終了し、これまでに得られたデータをまとめて解析する予定である。ここまでのプロセスで、特に計画遂行の支障となる事案はない。あえて指摘すると、世界情勢の変化によって石油製品の多いDNA実験用の器具、試薬の急騰が挙げられる。恐らく消耗品の値上がりによって、当初予定していた解析個体数をこなせなくなる可能性がある。幸いなことに計画最終年ということで、その影響は1年間だけに限られるので、全体から見れば比較的小さな影響に留まると考えられる。 以上まとめると、本年度まで進捗状況は概ね順調であり、当初計画した日本人の成立のプロセスを古代ゲノムデータで明らかにするという目的は果たせると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は計画最終年度である事から、データ解析を中心とした作業を行っていく。これまでの四年間の研究によって、弥生人に関しては、地域によってその遺伝的な特徴が大きく異なっており、その実態は地域によって様々であることを明らかにした。この傾向は古墳時代にも継承されていることも明らかとなったので、今年度は昨年度より解析を始めた古墳時代人骨のゲノムデータも含めて、ヤポネシア人の成立過程を見ていくことにする。 北海道集団では、縄文後期の噴火湾沿岸地域のゲノムデータを新たに取得し、これまでに得られているデータと併せて、縄文から続縄文時代における北海道集団の地域差と時代差について考察する。琉球列島集団の形成過程を明らかにするために、これまでに貝塚前期からグスク時代に至る琉球列島出土人骨のゲノム解析を進めたので、本年はそれらのデータに現代の琉球列島集団のゲノムデータを加えた解析を行う。また、南九州から奄美にかけての地域でも同様の解析を行っているので、それらを琉球列島のゲノムデータと比較する事で、南西諸島集団の形成のプロセスを明らかにする。更にその知見を考古学・言語学データと併せることで、集団の形成史を総合的に理解する。更に縄文時代や古墳時代のサンプルからは親族構造の解析にも使えるクオリティのデータを得ることができている。そこでヤポネシアゲノムA01班の考古学者との共同研究を通して、縄文時代の墓制や古墳時代における親族構造についても考察を進める。 このヤポネシアゲノム計画を推進した五年間では、日本列島だけではなく東アジアを中心とした地域でも古代ゲノムデータが揃ってきた。そこで、これらのデータも含めて東南アジアから東アジアにおける集団の形成史を見直し、その中に日本列島の古代ゲノムデータを組み込むことで、アジア集団の成立についても考察を進めることにする。
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Research Products
(11 results)