Research Abstract |
本年度はハーフメタル系Co_2MnSiとMgOバリアを用いたエピタキシャル強磁性トンネル接合(MTJ)のスピン輸送特性に対する支配要因を構造特性の面から明らかにすることを目的とした.このためのアプローチとして,Co_2MnSi(CMS)電極との格子ミスマッチが0.8%と極めて小さいCo_<50>Fe_<50>(CoFe)をバッファ層として用いたCMS/MgO/CMS MTJ(CMS MTJ)を作製し,そのスピン輸送特性を調べることにより,以下の知見を明らかにした. (1)CoFeバッファの導入により,4.2Kで1804%,室温で344%の高いトンネル磁気抵抗(TMR)比を実証した(従来のMgOバッファを用いたCMS MTJに対する値は,4.2Kで1135%,室温で236%.) (2)また,規格化されたTMR比の温度依存性は,CoFeバッファあるいはMgOバッファを用いた2つのCMS MTJに対してほぼ同一に近い事が分かった. (3)さらに,構造評価により,CMS両電極とMgOバリアの界面におけるミスフィット転位密度が,CoFeバッファを用いたCMS MTJでは低減し,MgOバッファを用いたCMS MTJに比較して約2/3となっていることが分かった. (4)これらの実験結果より,CoFeバッファの導入により得られた高いTMR比は,直接的には,界面のミスフィット転位の低減により,コヒーレントトンネリングの効果が増大し,磁化反平行状態での多数スピンバンドから少数スピンバンドへの非コヒーレントトンネリングの寄与が低減したことに由来すると考えられる.より広い観点からは,CMSの潜在的なハーフメタル性のために,少数スピンバンドのフェルミレベルにおける状態密度が本質的に低く,さらに,非コヒーレントトンネリングの抑制の増大によって,磁化反平行状態のトンネルコンダクタンスが低減し,特に低温で高いTMR比が得られたと考えられる.
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