2022 Fiscal Year Annual Research Report
機能インフォマティクスが解き明かすポストコッホ生態系
Project Area | Post-Koch Ecology: The next-era microbial ecology that elucidates the super-terrestrial organism system |
Project/Area Number |
19H05688
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松井 求 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任助教 (10803728)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩崎 渉 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (50545019)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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Keywords | バイオインフォマティクス / ネットワーク / 微生物ダークマター / 機能インフォマティクス / ポストコッホ生態系 / 微生物生態学 / 窒素循環 / 微生物形態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本領域は「持続可能な地球を創生するための技術開発」を究極の目標と定め、その基盤として「微生物の生理機能に裏付けられた生態系の理解」を目指す。そのためには「生態系の成り立ち」と「微生物と環境の相互作用」の両方の理解が必要不可欠である。しかし、自然界に存在する大部分の微生物が未分離・未解明(微生物ダークマター)である、生態系をめぐる環境の情報が不足している、という二つの理由から、いずれの理解もほとんど進んでいなかった。 本年度は、前年度に引き続き、構築したデータ集積プラットホームを活用し、圃場から得られる様々な情報の統合解析を行なった。 まず、時系列アンプリコンシーケンスデータと環境コンテキスト情報を組み合わせた解析では、クロルピクリン処理に応じて、微生物叢がダイナミックに変化することが明らかになり、さらに窒素栄養源の有無とクロルピクリン処理による撹乱、の合わせて3点のアトラクタが存在することが示唆された。また、ショットガンメタゲノム解析からは、プラスミドを含む外部遺伝子資源が広域宿主によって共有されていることが示唆された。さらにBac2Featureを適用したTrait-based approachによる解析では、上記のクロルピクリン処理に応じた微生物ダイナミクスは、形質組成の変化が種組成の変化に先行することによって生じていることが分かり、微生物ダークマターを含めた微生物叢の群集としての秩序形成過程が明らかになった。 また、領域の各先生方との共同研究も進んでいる。特に、重藤真介教授と共同で開発した「ラマン分光解析に基づく非破壊細胞識別技術」は機械学習手法と一細胞ラマン分光解析技術を組み合わることで、非破壊かつ単一細胞レベルで原核生物種をほぼ100%の精度で分類できるものであり、本年度はそれを誰でも使えるプロトコルの形でまとめ、公表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目的通り、引き続き、これまでに構築したデータ集積プラットホームを活用した多様な研究を進めることができた。例えば、微生物の形態情報を効率的に解析するために開発した「Bac2Feature(バックトゥザフィーチャー)」を適用したTrait-based approachによる解析では、微生物群集の動態の駆動力や、機能と環境コンテキストとの複雑な相互作用を詳細に明らかにすることができた。これはまさにデータ集積プラットホームの有効な活用事例であり、当初の想定以上に本プラットホームが有用であることを示すことになった。 また、アンプリコンシーケンス、およびショットガンメタゲノムの両方を組み合わせた解析では、農薬処理や施肥条件の差異と微生物動態を直接的に結びつけるような因子を特定することができ、これは「持続可能な地球を創生するための技術開発」という壮大な目標へ一歩踏み出すような成果であると考えている。さらに重藤真介教授との共同研究でも、前年度の成果をさらに発展させる形で微生物のラマン分光解析のプロコトル論文を年度内に出版することができ、領域にとっても重要な成果をもう一つ、結実することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
翌年度は、研究計画の最終年度となるため、これまでに明らかにすることができた微生物群集の動態や機能や動態に関する知見と、構築してきたデータベースや手法を活用しながら、種や遺伝子の共起関係、代謝パスウェイ、微生物と環境の相互作用からなる「ポストコッホ機能生態系モデル」の構築に引き続き取り組み、まとめたい。 具体的には、Bac2FeatureやGraph Splitting法のように、これまでに開発した我々独自のツールの有効性を示しながら同時にそれらを活用し、さらにショットガンメタゲノム解析、系統プロファイリング法などさまざまな方法を駆使して、圃場における微生物生態系の理解を深める予定である。特にこれまでの研究で見出してきた(1)微生物叢の複数のアトラクタの存在、(2)形質組成が駆動する種組成復元過程、(3)群集代謝のロバストネスと応答性のトレードオフ、といったテーマで複数の論文を執筆する予定である。 また、領域内のさまざまな先生方との共同研究もさらに積極的に進め、領域全体の力を結集することで「ポストコッホ機能生態系モデル」の精緻化にも、引き続き取り組んでいきたいと考えている。例えば、モデルが予測した種間相互作用や細胞内代謝遺伝子クラスターの情報を各専門チームに還元して検証する、あるいは難培養性細菌種と共起する微生物種を予測することで可培養化の効率向上を試みるといったことを行う予定である。
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Research Products
(17 results)