2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Information physics of living matters |
Project/Area Number |
19H05796
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
沙川 貴大 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (60610805)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 創祐 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 講師 (00771221)
|
Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2024-03-31
|
Keywords | 情報熱力学 / 生体情報処理 / 情報幾何 / トポロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度に沙川は、トポロジーの研究を中心的に行った。とくに、非エルミート系においては、例外点と呼ばれる新奇な機構でトポロジカルなエッジモードが保護されることを明らかにした。これは、エルミート系におけるトポロジカル現象の基本原理であるバルクエッジ対応が、非エルミート系においては破れうることを示す、基礎物理として意義の大きな成果である。また、このような現象が実際に細胞集団などのアクティブマターで生じることをモデルに基づいて明らかにした。この結果はNature Communicationsから出版された。さらに、非線形振動子の集団においてトポロジカルな同期現象が生じることを見出し、論文を投稿した。また、熱力学不確定性関係に基づくエントロピー生成推定の新しい手法を開発する研究や、ナノスケールの熱電素子を機械学習によって最適化する研究を行い、いずれも論文が出版された。 伊藤は確率分布の幾何学である情報幾何学と、熱力学の関係について詳しく調べた。まず、Fokker-Planckダイナミクスを情報幾何上の時間発展として捉えることで、クラメルラオ不等式がどう時間発展速度の限界を与えるかについて議論し、熱力学的不確定性関係や熱力学的速度制限などの熱力学トレードオフ関係とどう関係づくかを研究した。この結果はPhysical Review Xに出版された。また、エントロピー生成や部分エントロピー生成などの熱力学及び情報熱力学で重要になってくる量と情報幾何学の射影の考え方がどうか関わってくるかを調べ、 Physical Review Research誌から出版した。その他にも化学熱力学における情報幾何学的な解析や、熱力学不確定性関係を使った時系列からのエントロピー生成の推定、イジングダイナミクスにおける転移点付近の情報の流れの振る舞いの研究も行い、それぞれ論文が出版された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、当初の計画を大幅に超えて進展していると考えている。まず、沙川が中心になって進めているトポロジーの研究は、細胞集団など生物系におけるトポロジーの役割を理論的に明らかにして実験提案までを行っただけでなく、バルクエッジ対応の破れの発見という、基礎物理として意義の大きな成果に結びついた。この成果はNature Communicationsから出版され、高く評価されている。さらに、非線形振動子におけるトポロジカルな同期現象の発見も、ほとんどが線形系で研究されてきた従来のトポロジカル物理を非線形系へと拡張する研究であり、基礎物理として大きな意義をもっている。これらはいずれも、生物系などアクティブマターの新奇な現象を予測しただけでなく、トポロジカル物理の原理そのものの拡張へと結びつくものである。 また伊藤も、研究計画として掲げていた、情報幾何学という新たな数理的な道具を用いた情報熱力学の進展に関する理論研究について、熱力学的トレードオフ関係や情報熱力学第二法則を情報幾何学を用いて捉え直すという研究を出版に持っていくことができた。特に一本はインパクトが高いPhysical Review Xに出版されたこともあり、当初の計画以上に研究が進んでいるといえる。また新学術の実験班のデータを使って解析するための理論としても、2020年度に出版した熱力学不確定性関係を使った時系列からのエントロピー生成の推定手法の研究は有望であると考えており、新学術に参加している他の実験班との共同研究を複数取り掛かり始めることになった。そのため、2020年度は当初の計画以上に研究が進捗していると考えることができる。
|
Strategy for Future Research Activity |
沙川は今後も、トポロジーの研究を中心的に進めていく。2020年度に引き続き、非線形振動子の集団におけるトポロジカルな同期現象について研究し、その生体内における役割についても検討する。また、それを足掛かりとして、非線形系におけるトポロジーの一般論を視野に入れた研究を進めていく。これは非線形トポロジーという新たな分野を創出しうる挑戦的な試みである。さらに、古典確率過程に特有なトポロジカル現象の可能性と、その生体系における役割の研究も進めていく。 伊藤は今後、2020年度に得られた理論的な成果を足がかりに、新学術の他の班との共同研究について複数進めていくことを考えている。一つは、A01班佐々氏らが進めている熱力学的トレードオフ関係の研究と、我々が考察している情報幾何学的な熱力学との接点を探り、新たな理論を確立していくことである。また、A01班岡田氏などの実験班と、生物現象のモデルをベースに新たに構築した情報熱力学的な取り扱いを応用していく理論研究や、実際の実験で得られた生体時系列データを用いたエントロピー生成の推定の研究を進めていく。とくに、A01班で測定したF1-ATPaseやキネシンのブラウン運動の実験データを用いることで、そのダイナミクスにおけるエントロピー生成を機械学習の手法を用いて推定を行う。これは2020年度に沙川が得た研究成果をベースにしたものであり、今後も伊藤と沙川が協力して研究を行う。また、情報幾何学を用いた生体時系列データの解析を、B03班の青木氏らと進めていく。
|
Research Products
(31 results)