2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Information physics of living matters |
Project/Area Number |
19H05796
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
沙川 貴大 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (60610805)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 創祐 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (00771221)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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Keywords | 情報熱力学 / 生体情報処理 / 情報幾何 / トポロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
沙川は2022年度にトポロジーの研究に中心的に取り組んだ。とくに、非線形系のトポロジーの一般理論の構築に向けて、非線形チャーン数を定義し、それを用いると強非線形領域でもバルクエッジ対応が成り立ち、非線形性誘起のトポロジカル転移が起こることを見出した。なお、この前段階として行った非線形トポロジカル同期の論文はPhysical Review Researchから出版された。また、古典確率過程に特有のトポロジカル現象の研究も進め、winding numberがそのような現象を特徴づけることを見出し、論文を投稿中である。またそれ以外にも、情報熱力学の周辺で複数の論文を出版し、Physical Review Letter (Editor's Suggestion)やPhysical Review Xなどから出版された。 伊藤は、情報熱力学の生体システムの応用として膜輸送現象に適用した研究がPhysical Review Researchに出版されたほか、化学熱力学の情報幾何的による取り扱いを行った結果がPhysical Review Eに出版された。さらに最適輸送理論を定常状態熱力学にLangevin系および化学反応系に応用した結果が複数、Physical Review EおよびPhysical Review Researchに出版されたほか、これまでの研究の総まとめとして幾何学と非平衡熱力学に関する招待論文がInformation Geometry誌から出版された。このうち膜輸送の研究はA01班の岡田班との共同研究であり、また定常状態熱力学はA01班の佐々班との共同研究である。また本年度はそれ以外にも複数の論文を投稿しており、たとえば沙川と伊藤による共同研究として定常状態熱力学における熱力学的不確定性関係の論文が挙げられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、とくに理論研究について、当初計画を大きく超えた成果が得られたと考えている。 とくに沙川は、非線形チャーン数を導入して強非線形領域におけるバルクエッジ対応を明らかにした。これは非線形トポロジカル相の系統的な特徴づけを可能にした初めての研究であり、非線形トポロジーという新しい研究領域を拓く大きな意義があると考えられ、当初計画を大きく超えた成果であると言える。また、古典確率過程に特有のトポロジカル現象など、生物系と密接に結びついた新たなトポロジカル現象を見出すことにも、当初計画通りに成功した。情報熱力学についても、Physical Review LettersのEditor's Suggestionに選ばれるなど、注目度の高い成果を挙げることができた。ただし、C02班竹内らとの実験の共同研究は、実験装置の制約などから進んでいない。 伊藤の情報幾何学などの幾何学を用いた情報熱力学の拡張に関する研究についても、当初計画を超えた結果を得ることができている。例えば、最適輸送理論に基づいた情報熱力学の拡張については、注目を集めて直近での引用数が伸びており、現在はこの最適輸送理論に基づいた研究について力を入れて取り組んでいる状況にある。特に、最適輸送理論に基づいた熱力学的不確定性関係や速度限界などの熱力学的な不等式を、生物システムや化学反応系へ応用や拡張する研究については、本年度だけでも複数の出版がなされた上、すでに複数の論文の投稿に至っている。一方で、実験の解析に関する共同研究に関しては、解析を担当するために雇用したポスドクの退職や栄転が相次いだため、現状継続して続けられる状況になっていない現状がある。よって、この解析については解析を担当した方が栄転先で、研究をどれだけ行えるかという点に強く依存しており、残念ながら今後の進捗の見通しは不透明になったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
沙川は、最終年度である来年度に、非線形トポロジーや確率過程特有のトポロジーなどの論文を投稿・出版することで、これまでの成果を最終的な形にしたいと考えている。さらにそれにとどまらず、一般的な非線形系のトポロジカルな分類という、完全に未開拓の大きなテーマにも挑戦していきたい。また、確率過程に特有のトポロジカル現象に、多体効果を取り入れる研究も進めていく。さらに、それらの生体系における役割や、実験的実現の可能性についての研究を進めていく。それらを通して、トポロジカル現象と生物物理のクロスオーバーという研究領域の確立へとつなげていきたい。また、情報熱力学についての研究にも引き続き取り組んでいく。 伊藤は生体系を超えた熱力学的なトレードオフの新たな展開を、最適輸送や情報幾何などの幾何学に基づいて行うことを注力していこうと考えている。特に、ある種の緩和のスピードを決める遷移レートに関する固有値と、熱力学的な散逸のトレードオフ関係を、幾何学的な視点から導出したり、またそのような緩和のスピードに関する一般的な法則性を非エルミート性から導出する研究に注力していくことを考えている。また、さらに最適輸送理論や情報幾何に基づいた熱力学のアイディアをより様々な系に拡張し、例えば流体系や量子系、反応拡散系などの従来扱ってこなかった系での研究を行うことを企図している。その結果として、流体系や量子系での巻き数や渦といった概念を化学反応系に輸入することで、生体現象の記述を理解するための熱力学的なトレードオフ関係や情報熱力学的/物理的な概念の構築を目指していきたいと考えている。特に2023年度は最終年度でありすでに今までにこの研究提案における様々な研究を行っているため、2023年度はこれまでに得られた結果をまとめるとともに、次の研究提案に繋がるような研究の視野を広げることを目指す。
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Research Products
(35 results)