2021 Fiscal Year Annual Research Report
環境連成力学を基盤とした微生物行動シミュレータの開発
Project Area | Advanced mechanics of cell behavior shapes formal algorithm of protozoan smartness awoken in giorama conditions. |
Project/Area Number |
21H05308
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
石川 拓司 東北大学, 医工学研究科, 教授 (20313728)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上野 裕則 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (70518240)
西上 幸範 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (80639021)
|
Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2026-03-31
|
Keywords | 微生物 / 行動力学 / ジオラマ環境 / シミュレーション / 可視化計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究の立ち上げを行い、大型計算機を入札により導入した。主要な研究実績は以下の通りである。 1.クラミドモナスが流れに逆らって泳ぐ性質(走流性)を示すことを発見した。実験と理論、数値シミュレーションを融合し、そのメカニズムが遊泳の非定常性からくることを明らかにした(Omori, et al., J. Fluid Mech. 2021)。 2.さまざまな遊泳モードを持つ微生物の2体干渉の解析を行い、干渉運動の相図を作成した。これにより、微生物干渉の体系的な理解が進んだ(Darveniza, et al., Phys. Rev. Fluids,2022)。 3.数値解析手法の高度化にも取り組み、汎用性の高い境界要素法と近接場が得意な潤滑理論を融合させたLT-BEMを開発した。この手法を用いることで、微生物運動の解析精度が大幅に改善することを示した(Ishikawa, J. Comp. Phys., 2022)。 4.開発した微生物行動シミュレータをバイオフィルムの形成過程へと展開した。複雑流路内に形成されるストリーマーの形成過程を、細胞スケールからメゾスケールで計算した。そして、マクロなレオロジー特性とストリーマー形状の関係を解明した(Kitamura, et al., J. R. Soc. Interface, 2021)。 5.開発した微生物行動シミュレータを酵母の発酵過程へと展開し、培養時の輸送現象を定量的に調べた。培養容器内にプラスチックごみを模擬した物体を混入させると、ブラジルナッツ効果が現れることを発見した。この成果はSoft Matter誌の背表紙を飾り、プレスリリースされた(Srivastava, et al., Soft Matter, 2021)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究期間は半年という短い時間であったが、大規模計算機の入札が間に合い、年内に設置して稼働できた。また、1件のプレスリリースを行った。酵母発酵時のブラジルナッツ効果に関するものであり、ソフトマター分野で最高峰のSoft Matter誌の背表紙を飾った。さらに、精子の大規模集団遊泳を計算するための微生物行動シミュレータが、当初の予定を上回るペースで開発できた。 以上を鑑み、当初の計画以上に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、引き続き微生物行動シミュレータの基盤となる数値解析手法の開発、個々の微生物行動の数理モデル化、微生物間の相互作用の数理モデル化と集団挙動の解析基盤の開発を行う。また、さまざまなジオラマ環境下における微生物行動を可視化計測し、新規行動アルゴリズムを探索する。以下に具体的な計画を列挙する。 1)テトラヒメナは壁面を感知し、繊毛運動を変化させる。そこで、ナノとマイクロスケールを接続し、分子モーターの駆動力と繊毛運動の関係を記述できる数理モデルを開発する。そして、鞭毛・繊毛運動の力学的な機序を再現できる数値シミュレータを開発する。 2)群体をなす襟べん毛虫が、光刺激によってシート状や半球状へと形態を変化させる行動を調べる。群体襟べん毛虫の計算生体力学モデルを構築し、遊泳行動と摂食行動を定量的に評価する。 3)微生物が高密度で凝集した状況における、物質の輸送現象を表現できるシミュレータを開発する。このシミュレータを用い、懸濁液中の物質拡散テンソルを定量化する。 4)環境連成シミュレーターの基盤構築のため、移動境界や物質輸送を効率的に取り扱える数値シミュレータを開発する。 5)精子の集団遊泳を調べるため、境界要素法とスレンダーボディ理論を使用した大規模GPUシミュレータを開発する。このシミュレータを用い、精子間の相互作用や背景流れが集団遊泳に及ぼす影響を解明する。 6)赤潮藻を対象とし、海洋の乱流条件を模擬したジオラマ実験を行う。ジオラマ環境における日周鉛直運動を調べ、赤潮藻の行動アルゴリズムを解明する。 7)テトラヒメナなどの繊毛虫や、ボルボックス目などの微細藻類を対象とし、ジオラマ環境下における行動計測を行う。さまざまな環境を設定し、新規行動の探索を行う。
|