2013 Fiscal Year Annual Research Report
ゲノムアダプテーションにおけるストレス誘導性エピジェネティック変化の役割
Project Area | Systematic study of chromosome adaptation |
Project/Area Number |
22125005
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
石井 俊輔 独立行政法人理化学研究所, 石井分子遺伝学研究室, 上席研究員 (00124785)
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Project Period (FY) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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Keywords | エピゲノム / ストレス / 遺伝 / 疾患 |
Research Abstract |
本研究では、様々なストレスにより生じるエピジェネティック変化が長期間継続し、場合によっては遺伝し得る現象について研究し、そのメカニズムを明らかにすることを目的としている。これまでにショウジョウバエ転写因子dATF-2がヒストンH3K9トリメチル化酵素をリクルートして、ヘテロクロマチン構造の形成と維持に関与すること、熱ショックストレスなどの環境ストレスでdATF-2がリン酸化されるとヘテロクロマチン構造が壊れ、その状態が次世代に遺伝することを報告している。今年度は、ATF-2ファミリ転写因子の1つであるATF-7の変異マウスを用いて、感染ストレスによるエピゲノム変化の継続について解析した。遺伝子発現パターンと結合遺伝子の解析から、ATF-7はマウスマクロファージにおいて、多数の自然免疫系遺伝子(ケモカインCxcl3や転写因子Stat1)に結合し、ヒストンH3K9ジメチル化酵素G9aをルクルートして、転写抑制状態を維持していることが示された。LPS投与によりTLRシグナル伝達経路が活性化されると、p38によりATF-7がリン酸化され、自然免疫系遺伝子から遊離することが分かった。同時にG9aも遊離し、H3K9me2レベルが低下し、転写が誘導される。転写誘導が終息した後、H3K9me2レベルは完全には回復せず、basalな転写レベルの高い状態が長期間(数か月)維持されることが示された。これは私達の知る限り、自然免疫系の記憶のメカニズムに関する初めての知見である。以上の結果は、感染ストレスの影響が持続する現象において、ATF-2ファミリー転写因子が重要な役割を果たしていることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までは、ショウジョウバエのモデル系を用いて、環境ストレスが、ショウジョウバエATF-2(dATF-2)依存的にエピゲノム変化を誘導し、それが次世代に遺伝する事を明らかにした。そして熱ショックストレスなどの環境ストレスによる遺伝子発現変化が次世代に遺伝し、それがdATF-2に依存することを明らかにすることができた。またマウスとショウジョウバエの系で、栄養ストレスによる遺伝子発現変化も次世代に遺伝し、同様にdATF-2やマウスATF-2ファミリー転写因子の1つATF-7に依存することを明らかにした。さらに今年度は、感染ストレスの影響が持続する現象において、ATF-7が重要な役割を果たしていることが分かって来た。以上のように、様々なストレスによる具体的な遺伝子発現変化の継続や遺伝に、ATF-2ファミリー転写因子が関与することを明らかにでき、研究が順調に遂行された。
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Strategy for Future Research Activity |
様々なストレスにより、ATF-2依存的に誘導されるエピゲノム変化が世代を超えて遺伝するメカニズムを明らかにすることが重要である。そのためには、精細胞においてATF-2ファミリー転写因子が直接結合する遺伝子を同定し、それらのエピゲノム状態がストレスによりどのように変化するかを解析し、そして成熟精子にどのようなエピゲノム情報として伝達されるかを明らかにすることが必要である。さらに、環境ストレス、栄養ストレス、感染ストレスに加え、精神ストレスや日周リズム変化ストレスなどの影響も調べる必要がある。
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Research Products
(10 results)