2011 Fiscal Year Annual Research Report
到達距離が異なる複数の相互作用が生み出すマクロな構造
Project Area | From molecules, cells to organs : trans-hierarchical logic for higher-order pattern and structures |
Project/Area Number |
22127003
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
近藤 滋 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (10252503)
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Keywords | チューリング / ゼブラフィッシュ / 皮膚模様 / 反応拡散 / ネットワーク |
Research Abstract |
繰越が生じた理由>>色素細胞間の相互作用を測定しそれを定量化する研究に際し、これまで、種々の細胞の混合培養系を使っていたため、予期しない細胞種との相互作用が生じた。特に、虹色細胞との相互作用はかなりはっきりと表れるため、これを新たに測定するする必要があると考えられた。 研究の経緯>>まず、混合培養系でなく、個々の細胞をマニピュレートして、特定の位置に配置してコントロール下状態で接触させる、という新しい手技を開発した。この方法の有利な点は、接触の強さを任意にコントロールでき、かつ他の細胞との接触を排することで、取得した細胞間の相互作用をより正確に知ることができる点である。細胞を一個一個操作する必要があるため、手技の確立にかなり時間がかかったが、25年度の夏にはほぼ安定してデータが取れるようになった。その結果、細胞間相互作用の定量化がなされ、色素細胞間の接触刺激と挙動についての関係が、具体的にモデル化できるようになっている。結果として、色素パターン形成は主に黄色と黒色色素細胞の相互作用のみで起きることが確認された。この結果は、現在論文にまとめ、投稿準備中である。 一方、最初にマニピュレ-ションによる孤立培養を行うきっかけとなった虹色細胞であるが、何故この細胞が黄色・黒色素細胞の両方に強い誘因性を持つかは、謎である。ビボでは、虹色細胞は2種類確認されており、それぞれが、黒・黄色の細胞と接触しているので、相互作用についても2種類あるのかもしれない。その相互作用の実体と、模様形成における役割については、今後のプロジェクトに組み込んでいく予定であり、ひとまず、繰越分の研究は終了とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、ゼブラフィッシュの皮膚模様パターン形成の原理を明らかにし、その分子細胞レベルの情報を使って、動物のパターン形成の原理を明らかにしようとするものである。この2年間の最大の成果は、色素細胞間の相互作用がインビトロで見えるようになってきた事と、長距離の相互作用を伝達すると思われる細胞突起の発見である。 これまで、動物における等間隔パターン形成の原理は、Turingの反応拡散であると考えられており、実験研究者は拡散分子の同定を目指して研究を続けている。しかし、体内における分子の拡散が安定した勾配を作ることは、常識的に考えて非常に難しく、その現実性が問われていた。我々が発見した細胞突起による長距離シグナルを使ったパターン形成原理は、理論的にはTuringの原理と相同であるが、拡散ではなく、より安定な細胞突起の長さがキーとなるため、遥かに安定であることが予測できる理想的なものである。研究当初目指していたのは、まさにこのような発見であり、非常に重要であると自負している。もちろん、現時点ではまだ分子的な証拠が不足しており、「仮説」という段階を出てはいないが、今後、「黒細胞の細胞突起伸長のダイナミクス」「突起の先で起きるシグナル伝達反応の同定」を明らかにしていくことによって証明できると期待している。この2つの研究項目は、仮説の証明には必須ではあるが、in vivoの現象であるため、その同定には新たな技術を開発する事が必要であり、短期間で完成されるようなものではないかもしれないが、既に道筋は明らかであると考えているので、着実にゴールを目指したい。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 黒色色素細胞の突起の動態の観察>>黒色色素細胞の突起が、長距離の細胞間相互作用を介在するデバイスになっていると言うのが現在の仮説であり、それを証明するための証拠の一つとして、突起は何時、どのような仕組みで黄色細胞に向かって伸びて行き、接触するのかをアダルトの皮膚において動的に観察することが重要である。一個の細胞の突起を可視化し、動きを追尾するために、レーザーで蛍光の変化を起こすkikumeを蛍光指示タンパクとして使い、突起のvivoにおける可視化を行い、時間変化を記録する。うまくいけば、黄色細胞に対する突起接触の有無と黒細胞の生存の関係が明らかになると期待している。 2. 黒色細胞の突起の先端でのシグナル伝達の可視化>>現状では、突起の先でシグナル伝達がある、その分子はデルタノッチとギャップジャンクションであると推定しているのみであり、シグナル伝達が実際に起きている事を分子レベルで確認できているわけではない。このデータは、仮説の証明には必須であるが、実験的な困難が大きく、方法を模索しながらという形になるため、かなり時間がかかると予想するが、研究期間の終わるまでには何とかなるのではないかと期待している。 3.黄色細胞の短い突起で起きる分子相互作用の詳しい解析>>黄色細胞の先端が黒細胞に接触すると黒細胞が逃げ、黄色はそれを追うと言う一連の挙動が誘導され、それが2種の細胞の分離の主要因であると考えている。この動きのためには突起の先での双方向のシグナル伝達が必要であり、現時点ではシグナル分子が同定されていない。これも、研究機関の終わるまでには何とかしたい。
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Research Products
(20 results)