2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Advanced Molecular Transformations by Organocatalysts |
Project/Area Number |
23105008
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川端 猛夫 京都大学, 化学研究所, 教授 (50214680)
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Project Period (FY) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 位置選択性 / 有機触媒 / 遠隔位不斉誘導 / 会合定数 / 糖特異性 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機合成化学は官能基変換の化学を基軸に発展してきた。本研究ではこれまで培ってきた官能基変換の化学を基盤とし、糖類などの多官能基性化合物を官能基の集合体として捉え、その位置選択的官能基化をテーマに『分子の全体構造を見据えた分子変換の化学』への展開を目的としている。我々はこれまで糖類の位置選択的アシル化を行ってきたが、これは分子内に複数存在する水酸基間の識別である。今年度は分子全体の識別へと展開すべく、糖特異的アシル化触媒の開発を行った。また、分子全体の不斉環境の識別を意図し、反応点近傍のみの不斉識別からは困難な長鎖ジオールの遠隔位不斉非対称化を行った。 有機触媒によるアシル化は極めて糖特的に進行し、D-グルコース、D-マンノース、D-ガラルトース、D-アロース、L-グルコースの中でも、D-グルコースに高い特異性を示した。一方で、アシル化過程の糖特異性の起源を探るべく、この有機触媒から生成すると考えられる活性中間体(アシルピリジニウム塩)と、それぞれの単糖誘導体との会合定数を求めた。その結果、それぞれの会合定数はその反応性(アシル化の糖特異性)と相関がないことがわかった。これは会合定数で評価される静的な会合は、反応遷移状態に連動しないことを示している。 σ-対称ジオールの不斉非対称化は多くの例があるが、水酸基間の距離が遠くなるほど一般には困難になる。有機触媒を用い、σ-対称1,3-、1,5-、1,7-、及び1,9-ジオールの不斉非対称化を行った。本触媒を用いる不斉非対称化ではσ-対称1,7-ジオールが最も高いエナンチオ選択性を示した。さらに、4置換プロキラル炭素を持つ基質でも高度な不斉非対称化が見られた。このことは本触媒による不斉誘導が置換基の立体的大きさの識別に基づくものではなく、触媒分子による精密な構造認識に基づいて起こることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
有機触媒を用いる糖特的アシル化法を開発した。D-グルコース、D-マンノース、D-ガラルトース、D-アロース、L-グルコースの中でも、特に、D-グルコースに高い特異性を示すが、これらの糖と有機触媒から生成すると考えられる活性中間体(アシルピリジニウム塩)との会合定数はその反応性(アシル化の糖特異性)と相関がないことがわかった。これは会合定数で評価される静的な会合は、反応遷移状態に連動しないことを示しており、本現象は触媒による動的分子認識過程解明に向けて重要な示唆を与えるもので、関連研究分野の基盤的発展に寄与し得るものである。 有機触媒を用いる新しい遠隔位不斉誘導法を見いだした。σ-対称1,3-、1,5-、1,7-、及び1,9-ジオールの不斉非対称化を行った。通常は、1,3-ジオールの不斉非対称化では反応点となる水酸基にプロキラル炭素が隣接するため、その不斉識別は比較的容易と考えられるのに対し、1,7-ジオールの不斉非対称化では反応点の水酸基から4炭素離れた位置にプロキラル炭素が存在するため、その不斉識別は困難と予想される。これに対し、本触媒を用いる不斉非対称化ではσ-対称1,7-ジオールが最も高いエナンチオ選択性を示した。さらに、4置換プロキラル炭素を持つ基質でも高度な不斉非対称化が見られた。これは不斉合成の一般的傾向とは異なっており、不斉合成分野に新しい局面を拓くものである。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、糖類の位置選択的アシル化や糖特異的アシル化を達成してきた。この選択的反応を担う有機触媒は活性中心部と基質認識部とから成り立っている。今後はこのコンセプトを展開し、質認識側鎖と触媒活性中心を持つ種々の基質認識型触媒を設計し、種々の位置選択的反応開発を行う。具体的にはN-オキシル型酸化触媒、クロスアルドール触媒、カルボン酸型酸化触媒の開発を行う。これまで、基質のNHNs基から5元素離れた位置での反応を特異的に進行させる触媒開発に成功している。この特性を利用すると、アリル位にNHNs基を有するジエン基質のカルボン酸型酸化触媒によるエポキシ化は、近接する二重結合ではなく遠隔位の二重結合で起こり、δ,ε-エポキシ体が位置選択的に生成すると期待できる。同様にしてエナミン型触媒はNHNs基から5元素離れたアルデヒドを選択的にエナミンに活性化することで、アルデヒド間のクロスアルドール反応が期待できる。またN-オキシル型酸化触媒によるグルコピラノースの4位水酸基選択的な酸化を検討する。期待される生成物(4-ケト体)は3,5位の異性化や3,6位のデオキシ化による希少糖への鍵中間体として知られているが、加えてケトンの反応性を利用したC-C及びC-N結合形成が可能で、多様な分子変換への展開が期待できる。
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Research Products
(12 results)