2012 Fiscal Year Annual Research Report
経験依存的神経可塑性におけるプロテオグリカンの認識機構
Project Area | Deciphering sugar chain-based signals regulating integrative neuronal functions |
Project/Area Number |
23110002
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
門松 健治 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80204519)
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Project Period (FY) |
2011-07-25 – 2016-03-31
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Keywords | 糖鎖 / 神経 |
Research Abstract |
プロテオグリカンなどが構成する細胞外微小環境が学習・損傷後の可塑性や神経発達に重要な役割を果たすことが近年分かってきた。しかし神経細胞がどのように糖鎖シグナルを解読するのかについては謎であった。私たちはケラタン硫酸(KS)欠損マウスを作成し、脊髄損傷モデルなどを通して、ケラタン硫酸プロテオグリカン(KSPG)が重要な軸索再生阻害因子であることを発見した。一方、大脳視覚野において、細胞外微小環境のコンドロイチン硫酸(CS)を分解することにより、眼優位可塑性に大きな影響が起きることがこれまでに分かっている。以上の背景を基に、KS鎖機能ドメインとその受容体の同定を通して、KSPGの作動原理を解明することが本研究の目的である。 本年度、眼優位性可塑性において、特に幼弱期(感受性期)においてKS欠損マウスで非遮蔽眼(同側)の反応性増大が起きないことが判明した。一方、脊髄損傷などの神経損傷時に発現の上昇する、軸索再生の阻害の責任分子として、フォスファカンを同定した。すなわち、in vitroでアストログリアを培養し、それをサイトカインで刺激することで活性化した時際立って発現が上昇するものがフォスファカンであった。さらに、大量発現によって精製したフォスファカンは軸索伸長阻害活性を示した。フォスファカンはKSとCSの両方の糖鎖を有するプロテオグリカンなので、これまでのKS, CS消化の効果を説明できる可能性が出てきた。また、これまで言われたCS受容体であるPTPsigmaを含めた受容体型チロシンフォスファターゼがフォスファカンの機能的受容体である可能性が出てきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
KSとCSは同じパスウェイで働くこと、両者は同等でありいずれも必要条件であることを見出したことから発展し、今年度はKSとCSを担うプロテオグリカンの実体としてフォスファカンを同定できた。特に、神経損傷部に見られる活性型アストログリアからプロテオグリカンができることが知られているが、それをin vitroで模した活性化したアストログリアからフォスファカンを同定できたこと、精製したフォスファカンが軸索伸長阻害活性を有することを示せた意義は大きい。KS、CSの両方の鎖を持つキメラ型プロテオグリカンが軸索再生阻害の本態である可能性が出てきた。今後、中枢神経の損傷軸索の特徴であるdystrophic endballとKS, CSおよびそれらの受容体の関係にアドレスすることになるが、その材料を本年度揃えることができたと評価できる。 また、眼優位性可塑性について、感受性期特異的に、しかも「非遮蔽眼(同側)の反応性増大」という現象特異的に、KS欠損マウスは反応が見られないという表現型をしめした。これは、これまでCSについて言われてきた眼優位性可塑性への関与とは全く異なるものであり、眼優位性可塑性の糖鎖による制御機構にアプローチする上でも重要であると考えている。今後は特に「非遮蔽眼(同側)の反応性増大」の原理となっているLTPとKSの関係をアドレスすることになるが、本年度はこの具体的な指針を与えることができたと評価できる。 「KS鎖機能ドメインとその受容体の同定を通して、KSPGの作動原理を解明すること」という目的に沿って、本年度は着実に歩を進めることができ、今後に貴重な指針を与えた。従って2年目の到達目標は十分にクリアするレベルの達成度であったと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
1. Dystrophic endballとKS, CSの関係:中枢神経の損傷軸索の特徴であるdystrophic endballとKS, CSおよびそれらの受容体の関係を明らかにする。Dystrophic endballは濃度勾配を持ってコートしたプロテオグリカンによってin vitroで誘導できることが知られている。軸索だけを神経突起として伸ばす(樹状突起はできない)後根神経節細胞を用いて、KSとCSを持つプロテオグリカン(KS/CSPG)であるフォスファカン、アグリカンでdystrophic endballを誘導する。その上で、ここでもKS, CS消化が効果を及ぼすかを検討する。さらにdystrophic endballの中でどのようなイベントが起きているかを、細胞内小胞の動きを中心に解析する。 2. KS, CSとそれらの受容体の関係:これまで報告されたPTPsigma, LARは同じサブファミリーに属する受容体型チロシンフォスファターゼである。これらの受容体にKS, CSあるいはフォスファカンが結合するか、結合するとするならどのようなキネティクスかと解析する。 3. 糖鎖機能ドメインの同定:精製したフォスファカンについてKSの2糖分析を行う。特に硫酸化の程度が軸索再生阻害にどのように影響するのかをKSGal6ST(高硫酸化に必須の酵素)のノックダウンなどにより解析する。 4. 眼優位性可塑性とLTP:「非遮蔽眼(同側)の反応性増大」の理由とされるLTPがKS欠損マウスで影響を受けているかを大脳皮質第1次視覚野両眼領域のスライスを用いて検討する。
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