2002 Fiscal Year Annual Research Report
ジョン・ロックの政治思想における自然法理論の変容過程
Project/Area Number |
00J00359
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
朝倉 拓郎 九州大学, 大学院・法学研究院, 特別研究員(PD)
|
Keywords | ジョン・ロック / 自然法 / 政治思想 / 宗教的寛容 |
Research Abstract |
本年度において、報告者が明らかにしたことは、ロックが自らの政治思想を、現世における人間の生活に対する彼の総合的な理解の一部として提示したということである。具体的に言えば、ロックは、現世における人間の活動が、「政治の世界」、「社交の世界」、「良心(信仰)の世界」という三つの領域で営まれるものと捉えており、「政治の世界」についての彼の見解は、他の二つの世界における人間のあり方と常に対比されながら形成されていった。 ロックにおいて、現世における人間の活動は、究極的には理性よって認識された神の意志、すなわち自然法によって律せられるべきものであった。しかしながら、彼の認識論哲学の精緻化とともに、理性的論証による自然法認識の試みは次第に困難なものになっていった。それにもかかわらず、ロックは自然法の観念を放棄しなかった。ロックによれば、人間は完全に自然法を認識できないけれども、プロパティ(生命、財産)の保全に関わることについては、非常に高い蓋然性を持って正しい判断を下すことができる。この意味で、「政治の世界」は、ほぼ自然法に従って営まれることが可能である。さらにロックは「社交の世界」の教育の役割に注目した。社交の世界では評判の機能によって、人間は他者の好評を得ようとして、自発的に道徳的に行為するように教育される。また、理性だけでは完全に自然法を認識できない人間にとって、「良心の世界」における信仰は、神の意志に適った生活を営むためにやはり必要であった。 こうした観点から見れば、ロックの政治的議論、とりわけ『統治二論』における抵抗権に関する議論を、宗教的な信仰の現れとして解釈するは不適当であること、また、『寛容書簡』における宗教的寛容の議論は、信仰の自由の表明というよりは、「政治の世界」から「良心の世界」への介入を戒める議論として理解されることが明らかになる。
|