2002 Fiscal Year Annual Research Report
E.レヴィナスの倫理学における〈応答〉というモチーフ
Project/Area Number |
00J01982
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Research Institution | Osaka University |
Research Fellow |
高橋 綾 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 応答 / 知覚 / 身体 / メルロ=ポンティ / 絵画 / 奥行き / 色 / 絵画的意味 |
Research Abstract |
本年度は、レヴィナス的<応答>の限界と可能性をふまえて、本研究の主要テーマである<応答>というモチーフをさらに深める方向で研究を重ねた。 他者への応答に先立って、人間は世界に対して、問いかけと応答という根元的な関係を結んでいる。そのような関わりの成立する場所としての身体を究明したのがメルロ・ポンティであった。メルロ=ポンティによれば、われわれは世界内存在の媒体として身体をもち、その身体を通じて世界へと問いかけ、世界の示す「意味」に応えるのであるという。同様のことを認知科学の立場から研究したのがJ.J.ギブソンである。昨年度は、このメルロ=ポンティの知覚論、身体論と、ギブソンによる生態学的知覚論を精読し、比較研究して、環境と身体の関係について<応答>という視点から考察を深めた。 本年度は、これまでの研究をふまえ、<応答>論の新たな展開として「絵画論」に取り組んだ。メルロ=ポンティは、その知覚論の中で(セザンヌをはじめとする)画家が絵を描くというプロセスやその作品に言及している。本年度は特にメルロ=ポンティの初期絵画論に着目し、奥行きや色、事物の実在をどのように人は経験し、画家は絵画を描くことでこの経験をどのように再現するのかということを研究した。メルロ=ポンティが画家が絵画を描くプロセスやその作品に注目するのは、それらが世界や事物を見ると言うことにおける身体の働き、われわれが「世界に内属する」その仕方を、どんな見ることの科学よりも的確に、身をもって教えてくれるものだからである。「絵画的意味」は、見ることを可能にする身体の働きとして、われわれが眼差しをもったそのときからすでに存在しているのである。メルロ=ポンティの初期絵画論においては、絵画=知覚であるが、後期の議論においては、「見ること」は「見られること」と対となって、我々の自己の成立を支える蝶番の役割を果たすことになる。ここにおいて絵画の位置づけにも重要な変更が加えられることになるが、これについては今後の課題としたい。
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Research Products
(2 results)