2002 Fiscal Year Annual Research Report
第一遷移系列金属イオンの反応性に対するd電子の効果に関する理論的研究
Project/Area Number |
00J02316
|
Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
和佐田 祐子 名古屋市立大学, 大学院・システム自然科学研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 水交換反応 / 七配位状態 / Bader-Pearsonの二次摂動論 / クロロ鉄(III)イオン / モノヒドロキソ鉄(III)イオン / 解離的機構 / 非経験的分子軌道法 |
Research Abstract |
第一遷移系列(Sc〜Cu)の二価および三価イオンの反応性を解明して反応設計の指針を与えることを目標とした研究を行っている。イオンの溶液内反応での基本となる配位子交換反応に注目し、反応機構とその決定要因を非経験的分子軌道法に基づいて電子論的に解明するための研究を行っている。本年度は、これまでの溶媒交換反応における研究を発展させて、異種配位子が共存する溶媒交換反応を解析するためのひな型を構築することを目標とした。実験的には、異種配位子の存在によって反応速度や機構が変化することが結合配位子効果として知られている。結合配位子が水交換反応の反応機構に及ぼす影響を、分子軌道や電子密度分布に基づいた結合状態の解析を行って、電子状態理論に基づいて解明した。 ひな型の反応としては、電子状態が単純であり、比較できる実測データが存在する鉄(III)イオンの水交換反応に注目した。水溶液中の鉄(III)イオンにおける水交換反応は、会合的機構で進行することが実験的にも理論的にも示されているが、モノヒドロキソ鉄(III)イオンでは解離的になることが実験から示されている。理論的には、反応機構の決定要因が会合的七配位状態の構造安定性であることをこれまでの研究から明らかしている。この会合的七配位状態に特に注目し、配向性の問題を回避するためヒドロキソを塩化物イオンに変更したモデル系について構造や電子状態を解析し、以下の点を解明した。 1.クロロ鉄(III)モデル系では会合的七配位状態の構造安定性が低下し、水和鉄(III)イオンと比較して水交換の反応機構がより解離的であることを示した。 2.第一遷移系列二価金属イオン水和物では、cis攻撃が起こりやすいのに対し、クロロ鉄(III)イオンではtrans攻撃がエネルギー的に有利であることを示した。また、錯体の反応で重要とされるtrans効果からの予想とは異なった反応経路で水交換反応が進むことを明らかにした。 3.Bader-Pearsonの方法に基づいた解析を行った結果、クロロ鉄(III)イオンの水交換反応の方向が、水和鉄(III)イオンと同様に、七配位状態での反結合性d軌道と4s軌道との間の遷移密度に対応していることを示した。反結合性軌道を高くする結合配位子を導入することにより、反応機構を解離的にすることが可能であることが予想される。 これらの結果は、分子構造総合討論会、神戸大学、神戸、1p110で2002年10月に発表し、現在論文を執筆中である。
|
Research Products
(4 results)
-
[Publications] Yuko Wasada-Tsutsui, Hiroshi Tatewaki: "Electronic band structure of crystalline NaF : ionization threshold and exited states related to lattice defects"Surface Science. 513巻・1号. 127-139 (2002)
-
[Publications] Kenzo Hiraoka, Takashi Shoda, Ichiro Kudaka, Susumu Fujimaki, Susumu Mizuse, Shinichi Yamabe, Hiroaki Wasada, Yuko Wasada-Tsutsui: "Gas-phase study of the clustering reactions of C_2H_5^+, s-C_3H_7^+, and t-C_4H_9^+ with CO_2 and N_2O. Isomeric structure of C_2H_5^+, C_2H_5^+(CO_2)_n and C_2H_5^+(N_2O)_n"The Journal of Physical Chemistry A. 107巻・6号. 775-781 (2003)
-
[Publications] H.Moriyama, Y.Wasada-Tsutsui, M.Sekiya, H.Tatewaki: "The singlet electronic excited states of F_2 molecule"Journal of Chemical Physics. 118巻・12号. 5413-5421 (2003)
-
[Publications] Yuko Wasada-Tsutsui, Hiroaki Wasada, Shigenobu Funahashi: "Theoretical Study of Solvent-Exchange Reactions on the Hexasolvated Divalent Cations in the First Transition Series : Model Calculation of Hydrogen Cyanide Exchange"Bulletin of the Chemical Society of Japan. (受理).