2002 Fiscal Year Annual Research Report
近世フランスにおける国王入市式と都市社会-リヨン市を事例として-
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00J04433
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
小山 啓子 慶應義塾大学, 商学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 「良き都市」 / リヨン / ルネッサンス王政 / リヨン市派遣特使 / 市参事会 / 都市エリート / 庇護関係 / 都市と王権の共生関係 |
Research Abstract |
本年度は、16世紀フランスの都市と王権のあいだの動態的関係をめぐって、「良き都市」リヨンを主たる対象として取り上げ、地方と中央の相互交渉のあり方を、連動する都市内部の社会構造の変容と絡めながら検討した。9月にはリヨンに赴き、ローヌ県文書館とリヨン市文書館に所蔵されている手稿文書の再調査を行った。本年度の研究で明らかになったことは、以下の三点に集約される。 第一に、16世紀の王権は「初期絶対主義的」ではなく、むしろ「諮問的」であったことを、行政府の弱さが国王と臣下との直接的な対話に頼らざるを得ない事態を招いていたこと、領域の広大さと多様性がある程度の分権性と在地の自律性を必要としたという二つの理由を挙げて、従来の見解を修正した。そこで王権にとって、各地の首邑として発展した「良き都市」との関係が重要となってくる。 王権からの勅書や通達に比べて、より積極的に意思の伝達が図られたのは、むしろ都市の側からである。第二に、市参事会が「良き都市」の安定維持のために活発な渉外活動を展開し、頻繁に特使を派遣することによって、要請を伝え、またそれを実現するという交渉能力を確保していたことを明らかにした。しかしながら、都市の利権の保護を求める役割を担った特使は、しだいに官職保有者が多く任命されるようになる。この変容は、都市エリート層の変化を裏書きしていたのである。 第三に、16世紀後半における市政と都市支配層を調査すると、それ以前の富裕商人にかわって、セネシャル裁判所や地方財務局といった国王の支配機構の官職保有者が、支配層内部においてその比重を高めたことが判明した。そしてアンリ4世はリーグ期以後、これら寡頭的支配層の影響力をますます助長し活用した。他方、これに加担できない都市民は市政から切り離されていく。リヨンは王権との良好な関係を背景に繁栄を極めたが、王権による財政援助要求の過重化が進む16世紀後半には、都市の財政破綻と社会的紛争を引き起こした。官職を購入することができた一部の寡頭的支配層はそのアイデンティティを中央に求めるようになり、彼らと王権との相互的依存が「良き都市」リヨンとしての都市の一体性を崩壊に導いたのである。この成果はすでに学会等で発表しており、近く投稿予定である。
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