2002 Fiscal Year Annual Research Report
長期記憶成立に対するモノアラガイ中枢神経系での遺伝子発現の解析
Project/Area Number |
00J07087
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
畠山 大 北海道大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 軟体動物腹足類 / 味覚嫌悪学習 / C / EBP / 長期記憶 |
Research Abstract |
動物の学習およびその記憶の保持に関わる神経メカニズムの研究は,現在の神経生物学において最も関心の高い分野の一つである.本研究では,軟体動物腹足類ヨーロッパモノアラガイ(Lymnaea stagnalis)を用いて、連合学習の1つである味覚嫌悪学習の神経メカニズムを解析した. 学習・記憶形成機構のうち長期記憶を引き起こすメカニズムの中に,遺伝子発現による新しいタンパク質合成という過程が必要であると考えられている.そこで,味覚嫌悪学習成立において重要な働きをすると予想される転写調節因子CCAAT/enhancer binding protein (C/EBP)をクローニングし,中枢神経系におけるC/EBP mRNAおよびタンパク質の局在を組織学的に解析した.その結果,C/EBPmRNAおよびタンパク質は特にB2運動ニューロンに局在していることが分かった.B2運動ニューロンはCerebral Giant Cell (CGC)の後シナプス・ニューロンであり,モノアラガイの消化運動を制御している.更に,単一細胞定量リアルタイムPCR法により,単一のB2運動ニューロンにおけるC/EBPのmRNA量は,味覚嫌悪学習に伴い有意に減少することが明らかになった.一方,ウェスタン・ブロッティング法により,B2運動ニューロンを含む口球神経節のC/EBPの翻訳レベルおよびリン酸化レベルは学習によって増加することが分かった.これらの結果は,学習に伴って,B2運動ニューロンにおけるC/EBP遺伝子の転写活性は減少しているが,一方で,C/EBPタンパク質の翻訳活性およびリン酸化活性は増加することを示している.以上より,C/EBPのmRNAおよびタンパク質のターンオーバーが味覚嫌悪学習の際に変化することが,味覚嫌悪学習の成立に重要な役目を果たしていると考えられた.
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