1990 Fiscal Year Annual Research Report
たたら製鉄における近世技術の普及と労働力編成に関する研究
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01510211
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Research Institution | Okayama Shoka University |
Principal Investigator |
土井 作治 岡山商科大学, 商学部, 教授 (00207672)
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Keywords | 中国山地製鉄 / 高殿鑪 / 天秤鞴 / 吹差鞴(箱鞴) / 銑押・鈿押製鉄法 / 近世たたら製鉄技術 / 小半弓鉄山 / 玉川鉄山 |
Research Abstract |
1.中国山地における高殿鑪は、成立時期に諸説があるものの,鉄山労働者の居住区「山内」の形成,高殿建物,送風装置に天秤鞴の使用などを指標にすると,美作・備後・伯耆で延宝年間,安芸で貞享年間,出雲で元禄,石見で享保年間に成立したといえよう。それは野だたら段階の踏鞴から天秤鞴への発展系列をもち,銑押法を主体としていた。 2.この高殿鑪体制が中国山地で一般化するのは,18世紀前半期であり,後半期以後になると,山陽・山陰両型のなかに備後・中備後・出雲・石見・西石見五カ所流など技術の諸流派が形成される。そして,銑押・鈿押製鉄法の区別,製鉄炉の地下構造,高殿小屋の丸打・角打形態など,製鉄技術に地域的な工夫・改良のあとがみられた。 3.この中国山地固有の高殿鑪は,18世紀半ばから九州・四国・東北地方の製鉄に技術の伝播を行った。伝播の要因・形態には個有な事情が存在しているが,その多くは,当時各藩の国益思想にもとづく国産鉄自給・鉄加工業の振興など殖産興業政策が背景にあり,近世たたら製鉄技術の普及・平準化に一定の役割を果すものであった。 4.特に東北地方への伝播は,寛政年間,松平定信による白河藩領の小半弓藩営鉄山(福島県玉川村),八戸藩領の玉川鉄山(岩手県軽米町)及び仙台藩領の大原村橡沢鉄山の3カ所を数えるに過ぎない。この地方では,むしろ,近世初・中期に中国流を称する吹差鞴製鉄炉の導入・発展が注目される。たとえば,南部藩野田通中村屋の万谷・板橋・割沢・松倉鉄山(寛政元〜文政12)は,9間×12間の高殿に4合吹2炉を備えて交互操業を行い、画期的な出鉄増加を果している。また、幕末期には水車動力による吹差鞴鉄山を稼働したり,砂鉄に代えて岩鉄精錬を試みたことが知られる。このように東北地方の近世製鉄技術の改良の動向は,中国地方のそれを凌駕するものがあった。
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