1990 Fiscal Year Annual Research Report
1930年代世界恐慌のジャワ農村社会経済構造への影響に関する研究
Project/Area Number |
01510218
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
植村 泰夫 広島大学, 文学部, 助教授 (40127056)
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Keywords | 糖業 / ジャワ農村 / 賃金 / 資材購入費 / 借地料 / 栽培縮小 / 現金不足 / 大土地占有者 |
Research Abstract |
本年度は、恐慌と植民地産業との関連についての前年度の類型分けをふまえ,最大の植民地産業であった糖業のケ-スを分析し,恐慌の影響がどのような形でジャワ農村に及び、その社会経済構造に如何なる変化を及ぼしたかを検討してきた。糖業と農村経済との具体的な接点は,(a)賃金、(b)資材購入費、(c)借地料の3つであるが、恐慌による糖業の不振の中で最も早く減少するのは(b)、ついで(a)が29年から下り始め、(c)は32年からの大規模な栽培縮小を契機に低下を始める。そして、この32年以降(a)(b)ともに大きく低下した。この32年以降の栽培縮小は、ジャワ全体では最盛期の85%にも及び、栽培が完全になくなった理事州も存在した。この結果、100万人の労働者が失業し現金収入源を失なった。栽培縮小は、長期借地契約の場合には貸出し農民に補償を支払って契約を破棄することにより、また単年契約の場合には借地時期を延期する方法で実施された。これらは、一般に糖業側が農民に対して極端に不利な条件を押し付けない限り、比較的スム-ズに行なわれた。以上の結果、住民経済は深刻な現金不足、貧困化に直面したが、基本的には現金支出を最低限にまで切り詰めることでこれに対応した。また大量の失業者は、その多くが糖業の栽培縮小との関連で拡大した住民農業に吸収されたが、乾季作の場合には基本的に過剰労働力の吸収に貢献しておらず、「貧困の共有」が生じたと単純にいうことはできない。むしろ、農外副業の役割を重視する必要がある。糖業の栽培縮小を軸として発生した農村経済の変化は、特に大土地占有者に大きな打撃を与え、その「地主経営」を後退させた。この結果、恐らく19世紀後半期から徐々に進行してきた農村内の階層分化は、一時的にスロ-ダウンすることになったと思われる。今後、この展望については更に細かい地方的史料を収集して検証する必要がある。
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