1990 Fiscal Year Annual Research Report
中国語学史の総合的研究ー言語観・研究活動の展開を軸としてー
Project/Area Number |
01510268
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
大島 正二 北海道大学, 文学部, 教授 (20000599)
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Keywords | 中国語学史 / 中国人の言語観 / 中国人の言語研究 |
Research Abstract |
本研究の目的は、先秦時代より清代に至る間の、中国語についての著述に反映する著述・研究者たちの思索・言語観および研究活動の展開を総合的・通史的に明らかにし、終極的には学術史としての中国語学史を構築することにある。本研究代表者は所期の目的を達成するために、本研究に利用し得る各種資料を捜索収集し、それ等の整理・カ-ド化等を平成元年度に引続き2年度の実施計画とした。これまでに得られた資料によって得られた知見を述べるならば、そこには既成の言語理論の適用による整理・体系化を志向するのではなく、それぞれの時代の思潮や要請を背景に、それぞれの目的に従い、自国語の諸々の現象を解明しようとする姿勢が窺える。そして、そこで示される関心の対象は極めて特徴的である。即ち、中国語が単音節から成る無構造の孤立語であり、それを表記する文字が表語文字という性格を持っていることから、その関心は專ら漢字の形・音・義に集中し、インド、ギリシャ、ラテン社会、日本などに於ける言語研究とは異った独自の展開の様相を示している。一方、荀子のような、「名辞」とは意味を表わす手段とする立場は、古代ギリシャに於けるテセイ説的立場と同じであり、また孔子のように、名と実との一致を倫理基準に置くような言語意識は同じくビュセイ説的な観念を内包していると解されるが、中国人の思索の方法として指摘される、具象的知覚の重視、抽象的思惟の未発達などという枠組では律せぬ、このような思索・言語意識が古代ギリシャと同時代に中国に在ったことは注目に値する。只、その様な言語に関する言わば抽象的思惟はその後進展を見ることなく、專ら漢字に関心が集中し、その研究のみが継承された点にヨ-ロッパに於ける言語研究が辿った軌跡と大きく異なる様相を示すに至った理由が求められよう。次年度は更に資料の捜索収集に努めて不足を補い、本年度得られた知見を生かし、研究の結実を期したい。
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