1989 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
01510287
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中村 志朗 東北大学, 文学部, 教授 (50004031)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
窪田 真治 東北大学, 文学部, 助手
原 研二 東北大学, 文学部, 助教授 (60114120)
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Keywords | ドイツ喜劇 / 通俗演劇 / クライスト / ゲ-テ / レッシング / ウィ-ン民衆劇 / 文学的喜劇と通俗喜劇の分極化 / 道化 |
Research Abstract |
以下、研究代表者、分担者がそれぞれの課題に関して獲得した知見を総括する。ラテン系の喜劇やシェイクスピア喜劇の受容が、ドイツにおいて阻害された要因には、共通して喜劇を抑圧するような演劇観がかかわっている。しかし、そこにはそればかりではなくそういう傾向を助長するような社会構造的な問題が関係しており、イギリスやフランスのような意味での強力な中心を持たないドイツにあって、その様相は地方によって微妙に異なっている。この意味で、カトリック勢力の強い、保守的といってよいウィ-ンにおいて、民衆劇という形で例外的に喜劇が演劇の大きな力となったことは注目に値する。ただし、たとえばロマン主義の時代のベルリ-ンにおいても実際の観客はゲ-テ、シラ-をはじめとする古典的な作家の真面目な劇にのみ打ち興じていたわけではなく、むしろもはやされたのはイフラントやコッツブ-の通俗的な演劇であり、そのなかには喜劇も含まれている。そこには、ウィ-ンのような宮廷の劇場と民衆劇という形とは違った意味で文学的演劇と通俗劇の分極化が起こっていることを見ることができる。レッシングやクライストらの作品には、ドイツ近代喜劇の代表と言えるものがあるにもかかわらず、後にこのような分極化が生じたことについては、喜劇についてゲ-テが果たした両面価値的な役割が考慮されなければならない。それは、とりわけクライストとゲ-テの喜劇をめぐる関係に窺うことができる。一方さきに触れたウィ-ンにおいては、喜劇は十八世紀における民衆劇の成立の当初からいわば社会体制の内部に組み込まれており、逆にそれを利用して繁栄することができた。したがって、そこにはオ-ストリア社会の賛美と、批判が同居し得たのであり、オ-ストリア社会の形骸化とともに、オペレッタの世界に飲み込まれていくことになる。
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