1989 Fiscal Year Annual Research Report
刑事司法における弁護士の役割-弁護士業務再編の影響
Project/Area Number |
01520029
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
村山 眞維 千葉大学, 法経学部, 助教授 (30157804)
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Keywords | 刑事司法 / 弁護士 / 刑事弁護 / 法律扶助 / 公設弁護人 |
Research Abstract |
米国のニュ-ヨ-ク等の東部大都市における近代刑事司法制度の整備は前世紀の後半に行われ、それによって有罪の答弁の手続に見られるような刑事事件の大量処理の制度が形成された。この当時、刑事弁護は私選弁護人と裁判所が貧困者のために任命する弁護人(我国の国選弁護人に類似)とによって担われていた。しかし、経済の発展に伴なう弁護士層の階層化とともに、この制度によっては刑事被告人に対して充分な刑事弁護ができないことが明らかとなった。そこで主に問題となったのは、警察などの訴追機関の活動に対応し得る弁護活動の必要性と、裁判所の任命する弁護人の質の確保の必要性である。これらの要請に対して、ニュ-ヨ-クでは、主に法律扶助の強化、拡充という仕方で対応し、カリフォルニア州のロスアンジェルス等では、公設弁護人を設けるという対応を行なった。いずれの場合も、重視されたのは、刑事弁護の経験を積んだ弁護士をいかに確保するかという点と、弁護人に対して証拠収集を可能ならしめるような制度的手だてをいかにするかという点であった。このような刑事弁護制度の改革は、ニュ-ヨ-クでもカリフォルニアでも今世紀の初めに、それぞれの弁護士会が中心となって行なわれている。 従来、米国の刑事弁護の拡充は、1960年代以後における連邦最高裁判所のギデオン判決他一連の判決が大きな影響を与えたと言われている。言うまでもなく、これらの判決の意義は大きい。しかし、それ以前に、およそ半世紀前から刑事弁護の有効性を確保するための制度的改革が行なわれていたのである。有効な刑事弁護活動の実現は今日の我国における刑事司法の課題であり、米国の法制から学びうる点は少なくないであろう。しかし、60年代以後の一連の連邦最高裁判決、更には近年の刑事弁護の質をめぐる論議は、以上のような歴史的背景の下になされていることを、我々は充分に留意する必要があるように思われる。
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