1991 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
01540617
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
常木 和日子 大阪大学, 教養部, 助教授 (10127459)
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Keywords | 円口類 / ヤツメウナギ / アンモシ-テス幼生 / 血洞 / 液体骨格 / 比較解剖 |
Research Abstract |
現生の脊椎動物のうちで最も原始的な体制を示す円口類の比較解剖学的研究を継続した。今年度は特に円口類で発達している血洞系の解剖学的特徴、その機能的また進化的意義などについてまとめた。 スナヤツメのアンモシ-テス幼生では、発達した血洞は縁膜中にのみ認められた。縁膜は口腔と咽頭との間に存在する左右一対の袋状の構造であり、内部に大きな血洞系を持っている。血液の供給源は背大動脈の分枝と腹側出鰓動脈の分枝らしい。一方、血洞内の静脈血は前主静脈へ流入している。また縁膜内には血洞系の他、筋原繊維に富む少量の白筋と、筋原繊維が細胞の周辺部にのみ存在する大量の赤筋が分布していた。アンモシ-テス幼生は縁膜の絶え間ない掻き込み運動により、口から呼吸水と食物である植物性プランクトンを取り込んでいる。縁膜の運動は一義的には赤筋によるが、この筋肉の収縮を縁膜全体の掻き込み運動とするために、広大な血洞系が一種の液体骨格として機能していると考えられる。 スナヤツメ成体では縁膜は退化的となり、呼吸水は鰓孔を通して出入りしている。成体では血洞系が体内各所に発達していたが、特に鰓嚢を囲むものが顕著であった。赤筋に富む鰓嚢外壁の収縮が囲鰓血洞系を介して鰓嚢の収縮を引き起こし、これにより呼吸水の流出が起こるものと推定される。 ヌタウナギでも体内各所に血洞系が広く分布していた。縁膜内血洞や囲鰓血洞も、その構成の細部はヤツメウナギのものとは異なっていたが、やはり力の伝達装置として縁膜などの運動に関係しているらしい。血洞系の存在はナメクジウオや軟骨魚類との比較から、円口類の共有派生形質とはいえないが、円口類では呼吸などの基本的な生理機能の円滑な遂行に、一種の液体骨格として重要な役割をはたしていると考えられた。
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