Research Abstract |
軽量・高比強度のウイスカ及び粒子強化アルミニウム基複合材料は,エネルギーの有効利用とコストパフォーマンス向上の観点から,自動車やヘリコプターなどへの応用が期待されている。しかし,実応用に向けて重要な課題である,水分(湿気を含む)や融雪のための塩分を含む環境中さらには繰り返し受ける温度変化環境中,エンジン部品などで受ける摩耗環境中の特性変化の解明は,進んでいない。本研究では,これらの環境中で長期使用した場合の特性を評価し,その結果に基づき,モデリングをおこなって,寿命予測法を開発することを目指している.主な結果は以下のように要約される。 (1)エンジン近傍では繰り返し熱負荷を受け,微細組織が変化し,その結果力学特性も低下するが,そのメカニズムは明らかではなかった。そこで,熱サイクルがSiC粒子強化アルミニウム基複合材料の微細組織と強度に及ぼす影響を調べ,GPゾーンの溶解,βおよびβ'中間層の形成,転位の回復およびSiC粒子のクラスターとマトリックスの界面剥離が劣化の原因であることを明らかにした.また強度とヴィカース硬度には直線関係が成り立つことを利用して,熱的環境下で劣化した材料の強度を予測する経験式を導出した.この成果はこの分野に簡便な強度予測法を提供するもので,実用的価値が高い.本結果は国際学術誌Journal of Composite Materials, Vol.36,No.17,2002,pp.2073-2083に掲載された。 (2)熱サイクルを受けて劣化した複合材料がさらに繰り返し応力を受ける場合の力学挙動はほとんど調べられていない。そこで,SiC粒子およびウイスカで強化したアルミニウム基複合材料で疲労試験を行い,環境劣化した複合材は,応力制御と歪み制御でほぼ同じ挙動を示すこと,応力制御では,疲労寿命の後期では歪み振幅が低下する傾向があること,疲労特性に及ぼす強化材(ウイスカと粒子)の影響の差をき裂進展パスの違いから説明できることなどの基礎的情報を得た。本結果は第8回国際疲労会議(FATIGUE 2002)で発表した。会議集録の2603-2610頁に掲載済みである。 (3)室温と実用上の限界温度と考えられる300℃の高温での摩耗特性の差を把握することは重要な課題であるにもかかわらず,どのような現象が生じているかよくわかっていない。そこで,室温から300℃までの温度でSiC粒子強化アルミニウム基複合材料の摩耗特性を調べた。その結果,摩耗面上の薄い表面層は温度の上昇と共に大きくなること,この層はSiC粒子と摩耗相手材の点接触でクラックが形成されること,粒子剥離が摩耗をコントロールすること,複合材の摩擦係数はマトリックスアルミニウム合金より大きいこと,などの知見を得た。これらの結果は,国際学術誌Advanced Composite Letters, Vbl.11,No.6,2002,PP.299-304に掲載された。
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