Research Abstract |
海産魚類では,ある環境条件下における卵や初期仔魚の生き残りが確率論的過程に支配されており,加入量が卵初期仔魚の豊度や産卵期の環境要因の関数として決まらない。仔魚期後半以降のある段階になると,その時点での仔稚魚豊度や環境条件と新規加入量の間に一定の対応関係が得られ,加入量はこの関係によって決定論的に決まると考えられる。確率論的生残過程から決定論的生残過程への移行が初期生活史のどの発育段階でおこるのかを特定し,移行後の年級群豊度と環境条件からマアジの加入量を予測する方法を確立する。飼育実験によって耳石の日輪形成を確認すること,昨年度確立した日輪読取り方法を用いて,天然マアジ稚魚耳石形態の発生時期による違いを検討することを今年度の目標とした。 (1)舞鶴湾の定置網で,標準体長48.6±8.6mm(28.4-67.7mm)のマアジ稚魚を採集し,100L水槽中で30mg/LのALC(アリザリンコンプレクソン)溶液に24時間(22℃)浸漬して耳石に蛍光標識した。稚魚を1×1×1mの屋外いけすに移し,1日に2回投餌して26.8±2.3℃(20.3-29.7℃)で30日間飼育した.ALC標識は紫外線によって蛍光を発する帯として観察され,5日ごとに採集した稚魚の標識後の日数(D)と蛍光帯の外側の輪紋数(N)は,N=0.10+0.98Dで表された。直線の傾きは1.0と有意差がなく,輪紋は1日1本形成されると考えられた。2002年6月1日から60日間飼育されたマアジ稚魚(14.6-30.8mm SL)の扁平石には58.3±1.6(N=18)の輪紋が確認されたこととあわせて,マアジの耳石微細輪紋が孵化後第3日(2日齢時)に第1輪が形成される日輪であることが確認された。天然稚魚を飼育して環境条件と耳石成長・体成長を解析する標本を得た。 (2)山口県深川湾で,2002年6月25日〜9月20日に採集された体長39.7-132.1mmのマアジ稚魚308個体について,耳石の日輪と二次核を観察した。稚魚のふ化日は1月16日〜5月30日の範囲にあった。最初の二次核は30.4±6.1日齢時に形成され,その後8.2±4.1日間に合計6.1±1.7個の二次核が形成された。第1二次核形成日齢は,ふ化時期が遅い個体ほど有意に若く,2月までに生まれた群の平均が32.8日齢,3,4,5月生まれ群の平均がそれぞれ31.1,29.3,26.7日齢であった。耳石前方軸周辺を除く二次核の総数はふ化時期が遅い個体ほど有意に少なく,4群で5.5,5.9,6.2,7.1個であった。20〜50日齢時の耳石日輪間隔は,2月までに生まれた群と3月生まれ群とは差がなかった。しかし,4,5月生まれ群はこれら2群に比べて有意に間隔が広かった。 (3)マアジの産卵が3月までは東シナ海南部中心で,4月以降に西日本沿岸域でも始まることを考えると,3月までの産卵期前半生まれ群は主として東シナ海で,4月以降の産卵期後半に生まれた群は主として九州西方から日本海西部で発生したと考えられる。両群には上に述べたように耳石構造に明らかに違いがある.前半生まれ群の日輪間隔が狭いことは,仔魚期から稚魚期の初めに成長速度が小さかったことを示唆する。また前半生まれ群において第1二次核形成日齢が高かったことは,仔稚魚期における発達も遅かったことを示唆する。これらのことから,産卵期前半に東シナ海で生まれた群と,後半に対馬暖流域沿岸で生まれた群では,生活史初期における生態に差があると考えられた。 これらの成果をもとに、現在論文1編を投稿中、1編を準備中である。
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