2003 Fiscal Year Annual Research Report
山東京伝序「江戸風俗図巻」の研究―18世紀末の江戸文化の様相
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01J00442
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
武田 雅恵 (安井 雅恵) 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 日本美術史 / 浮世絵 / 喜多川歌麿 / 歌川豊国 / 寛政年間 / 滑稽本・咄本 / 浮世物真似 / 江戸風俗図巻 |
Research Abstract |
喜多川歌麿の享和期の観相物に着目、寛政年間とそれ以降の人物表現の差異について考察を行い、山東京伝序「江戸風俗図巻」の位置づけを試みた。 享和期の観相物と呼ばれる歌麿の「教訓親の目鑑」「咲分昌葉の花」「婦人相学拾躰」は、寛政期のそれとは異なり、説明が書き込まれていることが特徴である。このように文・絵一体で人物を表現する形式は浮世物真似や落し噺における人物の形態模写を取り込んだ滑稽本・咄本の類に近似している。つまり享和期の観相物のねらいは、滑稽本・咄本と同じく「笑い」にあったと推測できる。その傍証として、歌川国芳によるいわゆる「百面相もの」が挙げられる。これらの絵本や版画は国芳の戯画として紹介され、寄席芸である百面相などに取材したことが指摘されているが、その表現は享和期の観相物と、構成、描写の点で近似している。このことから享和期の観相物は国芳の「百面相もの」の先行例としても位置づけられ、また同じ観相物という趣向をとっても、歌麿の意識が寛政期から享和期にかけて変化したことが認められる。 ところで国芳の「百面相もの」の先行作として、歌川国丸の「人物面尽くし」の存在が指摘されている。国丸作品の他にも、初代歌川豊国をはじめ歌川派の絵師は滑稽本類に挿絵を描くことが多く、人物の個癖を強調した滑稽な気質描写を得意としていたと言える。こうした歌川派の気質表現が顕著になるのは文化年間以降のことであり、気質描写において豊国の「江戸風俗図巻」は先駆的存在と位置づけられる。また、既に「江戸風俗図巻」の女性表現が歌麿の寛政期の観相物の影響を受けていることを指摘したが、豊国は「江戸風俗図巻」において、歌麿の意識の変化に先だって、おかしみを加えた気質描写を試みている。すなわち「江戸風俗図巻」は歌麿も含め、享和期以降の気質描写の特質を先取りした作品と位置づけられるのである。
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Research Products
(1 results)