Research Abstract |
今年度は,前年度の信用リスクに関する研究(研究成果は国内の学会誌,『経営財務研究』に公表,裏面ご参照)に引き続き,金融市場における第三のリスク要因であります流動性リスクに関する研究を中心に実施し,成果をOsaka Economic Papers,及びAsia-Pacific Financial Marketsへの2本の論文として発表致しました(裏面ご参照). それぞれの概要につき簡単にご報告致しますと,まず,1本目の研究は,現在,日本でほとんど研究の行われていない市場流動性に焦点をあて,取引高とともに,その経済的機能や特性,あるいはリターンやボラティリティといった他の金融市場変数との間の時系列的相互関係を実証的に調査したものであります.分析の結果,流動性については理論研究が示唆する循環性という特性と他の金融市場変数に関する予測力を有することを確認し,また,取引高については,理論研究が主張するような価格調整機能,情報顕示機能はデータ上認識できず,従って,我が国株式市場における取引高は,日次ベースで見る限り,市場清算的にのみ機能しているとの米国の先行研究における多くの主張とは異なる結果を導出致しました. 2本目の論文では,まず,我が国株式市場における流動性を含む金融市場変数が,高い自己相関,即ち,長い記憶(long-term memory)を有することを厳密なR/S分析により確認した後,この長い記憶と整合的なモデルである,小数和分自己回帰移動平均(ARFIMA)モデルを完全最尤法により推定し,その有効性を実証致しました.のみならず,先行理論研究からの含意も変数間の因果関係としてモデルへ取り込み,通常の単純なARFIMAモデルを多変量型のMulti-Factor ARFIMAモデルへと拡張することで,モデルの推定精度が,通常のARFIMAモデルとの比較上格段に向上することを実証分析により明らかに致しました.
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