2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
01J01566
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
高見 智香 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ストレス伝達 / 活性酸素消去系酵素 / 樹体サイズ / 養分状態 / スギ / モミ / 神奈川県丹沢地域 |
Research Abstract |
現在、世界各地で樹木衰退が問題となっている。樹木衰退の原因解明のためには、実地的な調査とストレス要因の推定、それらの要因に対する樹木の生理応答解明などが必要である。しかし、樹木の生理学的な知見は未だ不足しており、特に自然条件下に生育する成木の知見は少ない。 これまでにも衰退要因と推測されているストレスを樹木に負荷し、その生理応答を観察するという研究が行われてきているが、その多くが制御された条件下で苗木に対して行われたものである。 森林衰退の原因解明には、上記のような苗木の実験結果を野外に生育する成木に適応していくことが必要だと思われる。しかし苗木と成木では樹体サイズの違いなどの問題があり、苗木の実験結果をそのまま成木に適用することは困難である。そこで本研究では苗木と成木の違いのうち樹体サイズの違いに着目し、ストレス伝達について活性酸素消去系酵素の応答を中心に解析を行い、それによって苗木の実験結果を成木に適応していく上での足がかりを作ることを目的として以下のような実験を行ってきた。 これまでの研究では、樹体サイズの異なるスギ苗木に制御条件下でアルミニウム(Al)ストレスを根圏に負荷し、葉のスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)を測定した。その樹体サイズの違いに関係なく根圏のAlストレスを速やかに葉に伝達するメカニズムが存在することが明らかになった。しかしそれ以外の測定項目(培養液の状態の変化)では樹体サイズによって異なる傾向が見られた。また自然環境条件下に生育するサイズの異なる樹木の生理状態を把握するため、大気汚染の影響を受けやすいと思われる地区と受けにくいと思われる地区に植栽生育させたモミ(Abies firma. Sieb et Zucc)の苗木、及び現地に存在していた幼樹・成木の生理状態を比較した。その結果、大気汚染の影響によると思われる土壌の成分状態が変化に伴い、樹体サイズに係わらず、モミ葉の養分状態の変化、光合成活性の低下、また活性酸素消去系酵素の活性の低下が観察された。しかし葉の養分状態では各サイズにおいて傾向の違いが見られた。 本年度の実験においては、自然環境条件下におけるスギの成木の生理状態を調べるため、上述のモミの実験を行った神奈川県丹沢地域において、近隣のスギ人工林において2002年7月下旬に葉を採取し分析に用いた。その結果、養分状態においてはモミ同様、相模湾に面し大気汚染の影響を受けやすいと思われる南東斜面に生育していたスギの葉のクロロフィルの総量が他地域に比べて減少していた。また有意差は見られなかったが、葉のCa濃度が減少し、Al, Feなどが増加する傾向が見られた。Mgなどに変化は見られなかった。 今後は、樹体サイズの差を大きくした苗木を用い、活性酸素消去系酵素の活性や活性酸素種及び養分状態の測定を中心に実験を行い、自然環境条件下における樹木の生理状態と比較していく予定である。
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