2002 Fiscal Year Annual Research Report
アジャンター壁画の研究-アジャンター石窟寺院の造営年代に関する研究の一環として-
Project/Area Number |
01J01799
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
福山 泰子 名古屋大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | アジャンター / ヴィシュヴァンタラ太子本生 / 観音諸難救済図 / 描起し図 |
Research Abstract |
本年度の研究成果として、まず、2002年8月および2003年2月の2回、研究対象であるアジャンター石窟寺院の実地調査をもとに、前年度に引き続き、壁画の描起し図(線図)の作成を行った。本年度は第16窟および第1窟を中心に行ったが、昨年度線図作成を行った第17窟壁画のうち、新たに洗浄の実施された「ヴィシュヴァンタラ太子本生」図の部分についても線図を改めて作成した。その結果、これまで未詳であった場面が、サーンチーや同石窟第16窟などの他の諸作例には必ず表現される場面「帝釈天による妻の返還」であることが明らかとなり、また物語表現における構図の特質を再検討した結果、本作例においては山岳が意図的にいくつかの機能的な形態を取り、物語展開を促す装置として挿入され、これまで指摘されていた背景や添景のための充填モティーフ以上の意味を担うことが明らかとなった。本研究成果は2003年5月「美術史学会全国大会」に於いて発表予定である。 論文としては「アジャンター石窟における観音諸難救済図」と題する論文を『名古屋大学博物館報告』に発表した(2002年12月発行)。アジャンターの諸難救済図を図像的な観点から考察し、危難場面が従来説の『妙法蓮華経』ではなく、パーラ期成立の多羅菩薩の経典に合致し、西インド後期仏教石窟に見られる図像が密教経典になんらかの影響を齎した可能性を指摘した。さらに、諸作例を当初と追刻に分類した結果、前者は全て後壁あるいは柱頭裏面という入口に対して背面に表現される共通性が認められ、そこに観音菩薩が石窟の「守護」という役割をもって表現された意図があることを指摘し、石窟奥の仏殿にある仏三尊像の脇侍の尊格問題とも関連して、アジャンターでは観音菩薩を本尊脇侍とする概念が未だ定着していなかったことも併せて示唆した。
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Research Products
(1 results)