2002 Fiscal Year Annual Research Report
反証可能な統語理論構築を目指して―意味解釈の二つの源:言語機能と言語外認知装置
Project/Area Number |
01J02196
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
林下 淳一 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | スコープ解釈 / 取り立て助詞 / 受動文 |
Research Abstract |
本研究の基盤となる仮説は、スコープ解釈に(i)言語表現自体が持つ意味のみによって可能になるものと(ii)言語表現が持つ意味に状況等に基づく推論が加えられてはじめて可能になるものとがあるということであり、その方向性の妥当性を私の過去の論文で示してきた。スコープ解釈に基づいて言語構造、言語装置の仕組みを分析する場合、(ii)の可能性を排除し(i)だけに言及する必要があり、(i)と(ii)を峻別するための分析方法の解明は不可欠である。 本年度の成果として主に以下のものがあげられる。 1.昨年度(13年度)の研究で示した命題「上記の(i)のスコープ解釈に必要な言語装置からの出力時の構造が(ii)のスコープ解釈と共存できない」を含む論文を完成させた。(この一月中に学術誌に投稿予定である) 2.従来,表層的に[...A[...B...]]の構造を持つ文SがAやB等に数量詞を持つ時SはN(N=2以上)通りのスコープ解釈を持てることを根拠に、Sの言語装置の出力時の構造はN通りあると考えられてきたが、本年度の研究で上記の(ii)のスコープ解釈を排除して(i)のスコープ解釈だけを考察すると(英語でも日本語でも)Sに可能なスコープ解釈は常に1通りであることを明らかにした。この考察は、Sの言語装置の出力時の構造は常に1通りあり、生成文法の「エコノミー」という概念が言語装置の働きを制御していることを示唆する。この成果の一部については、米国の2つの学会で発表し、米国の学術誌Japanese/Korean Linguisticsの2003年版に出版される。 3.取り立て助詞(だけ、さえ等)を含む文は、従来、一般的にスコープ解釈を持つとされてきたが、取り立て助詞が名詞の格助詞の(後ろに付くのではなく)前に付く場合(例、花子だけに)は、スコープ解釈を持っていると考えれないことを示した。この成果については、学会発表のためにアブストラクトを投稿している。 4.日本語の受動文の統語的構造は、従来、英語の受動文やRaising構文の分析に準ずる形で仮定されていることが多いが、その仮定が成立せず、後者で働く言語装置の操作(生成文法の「A-Movement」)が、前者で働いていないことを確認した。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] J.R-Hayashishita: "Restriction on Covert Movement : Evidence from Comparative Ellipsis in Japanese"Japanese/Korean Linguistics. 12(未定). (2003)
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[Publications] J.R-Hayashishita: "Restriction on Covert Movement : Evidence from Comparative Ellipsis in Japanese"Theoretical and empirical studies of ellipsis : Toward the establishment of generative grammar as an empirical science, Report of the Grant-in-Aid for Scientific Research (B), Grant No. 12410128, supported by Japan Society for the Promotion of Science.. (未定). (2003)