2002 Fiscal Year Annual Research Report
18世紀理性宗教論の展開と、特にその完成者としてのカントの宗教論について
Project/Area Number |
01J02723
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
後藤 正英 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | ヤコービ / シェリング / 人間学的宗教論 / スピノザ論争 / 啓蒙主義 / インター・カルチュラル哲学 / 自然的宗教論 |
Research Abstract |
本年度は、ドイツ連邦共和国ミュンヘン大学に客員研究員として研究滞在し、現地の研究者の協力にもとに、研究課題の推進を行った。日本では入手困難な文献の資料収集を行い、現地でのいくつかの学会や研究会に参加できたことは、研究課題の進展上、得るところが大きかった。本年度の研究実績を、以下に3点に分けて報告したいと思う。 ・6月には、マールブルク大学で行われたシェリング会議に参加した。今回の大会のテーマは「シェリングとカント」であり、4人の研究者が、初期シェリングの認識論、ドイツ観念論美学、シェリングの人間学、シェリングの自由論、という各々のテーマについて、カントとシェリングの関係を念頭においた発表を行った。もともと、近代の理性宗教論や自然的宗教論は人間学的宗教論という性格を色濃く持っていたわけだが、その意味でも、研究課題の遂行上、特に興味深かったのは、シェリングの人間学についての発表であった。発表者のツィッヒェ氏は、生物学や生理学での成果に基づく人間に関する経験的知識と、神学的な背景を伴った存在論的な人間理解の両者を架橋する試みが行われている点に、シェリングの人間学の特徴がある、という趣旨の発表を行った。ここ数年のシェリング研究においては、同一哲学期以降のシェリング哲学を、単純に神学的傾向を強めた思想としてではなくて、新しい人間学の構想として評価し直そうとする傾向が見られるようになったが、この発表もそのような傾向の中での一つの成果であったといえる。また、後期シェリングでは、自然的宗教は、純粋な理性宗教論との対比において、神話論としての位置付けを得るにいたっている。このようなシェリングの自然的宗教の理解を18世紀の自然的宗教論からの流れの中で理解した場合、そこには、きわめて興味深い視野が開かれてくるように思われる。なお、この会議についての私の報告は、平成15年度に出版される『シェリング年報』に掲載される予定である。 ・9月の日本宗教学会では、「ヤコービの理性批判の核心とは?」というタイトルで研究の成果を口頭発表した。ヤコービは、晩年のメンデルスゾーンとのスピノザ論争で有名な存在であり、啓蒙主義的な理性宗教論への代表的な批判者である。発表では、ヤコービ思想の展開の中で、理性についての理解が微妙に変化を遂げる過程を追跡した。 ・10月には、ミュンヘン大学で行われたインター・カルチュラル哲学会に参加した。また12月にも、同じ学会の補足的プログラムとしてケルン大学で行われた公開討論会に参加した。インター・カルチュラル哲学は、インド出身の哲学者であるマル教授によって創設された比較思想の学会である。マル教授は、諸文化の間の通約可能性を完全に認める立場と徹底して否定する立場の双方の両極端を批判し、様々な文化の間に重なり合いが生じるための諸条件と、そのために必要な解釈学的な方法論を提起している。マル教授自身は啓蒙主義的な理性宗教論の立場には批判的であるわけだが、私は、近代の理性宗教論の中にも、このような文化や諸宗教の重なり合いを理解するための可能性を見出すことができるのではないかと考えている。
|
Research Products
(1 results)