2002 Fiscal Year Annual Research Report
ヘラクレイトスの生命観とギリシア医学におけるその展開について
Project/Area Number |
01J02741
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
木原 志乃 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ヘラクレイトス / ギリシア医学 / ヒッポクラテス / 対立の一致 / 身体観 / 医学史 / エリュクシマコス / イリノミアー |
Research Abstract |
本年度の主要な研究業績としては、以下の二つの論文がある。まず、1.「初期ギリシアの医学理論とヘラクレイトス」という主題で立命館哲学会の研究発表を行い、同タイトルの論文を『立命館哲学』14号に掲載した。さらに、2.「エリュクシマコスのエロース論」というタイトルの論文を古代哲学会編『古代哲学研究』34号に掲載した。 1.の論文では、初期ギリシア医学史上最初に生理学について詳しく語ったといわれるアルクマイオンの説とヘラクレイトスの説とに共通する思想基盤を確認し、さらに「ヒッポクラテス集成」[とくに『古い医術について』(De vetere medicina)と『人間の自然本性について』(De natura hominis)]における体液の混合(クラーシス)説とヘラクレイトスの説との関係を明らかにした。主要な「ヒッポクラテス集成」において示唆される体液説は、アルクマイオンのイソノミアー説と共に、反アトミズム的な身体観を基盤としながらヘラクレイトスの「対立の一致」に遡源するような特質をもつものであることを指摘し、そしてその体液説の系統をピュタゴラス派やエンペドクレスのそれとは異質なものとして位置づけた。 2.の論文では、プラトンの『饗宴』(Symposium)におけるエリュクシマコスの医学説(185E6-188E4)が、『養生法について』(De victu)の議論と連絡を持ちながら、ヘラクレイトスと医術の関わりを強調するものである点を明らかにした。そして、ソクラテス-ディオティマのエロース論との関係をも視野に入れて、ヘラクレイトスと医学理論との繋がりをプラトンがしっかりと念頭においていたという点を主張した。 以上、これらの論文の考察を通じて、ギリシア医学思想史におけるヘラクレイトス哲学の重要性を明らかにし、さらにギリシア医学における身体観や経験に基づいた医学の方法論がヘラクレイトス思想と深く結びついていたことの意義をも明らかにした。
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